相次いで金星スイングバイした水星探査機「ベピコロンボ」と太陽探査機「ソーラーオービター」の観測により、金星へ吹き付ける太陽風が予想以上の高度で滞留していることがわかった。
【2023年2月1日 JAXA宇宙科学研究所】
太陽からは高速のプラズマ流が放出され、惑星の大気へと吹き付けている。このプラズマ流は太陽風と呼ばれ、惑星大気にエネルギーを注入し、散逸させてしまうなど様々な影響を与えうる。地球の場合は固有磁場による磁気圏が太陽風を逸らすことで大気が守られている一方、金星は磁場を持たないが厚い大気に包まれている。
金星の場合でも、大気は無抵抗で太陽風にさらされているわけではない。電離圏と呼ばれる大気の最上層では、文字通り大気が電離してプラズマとなっているため、太陽風が運んできた磁場と相互作用する。こうして作られた誘導磁気圏は、飛んできた太陽風を減速させる。遅くなった太陽風は誘導磁気圏の周りに溜まり、磁気シースと呼ばれる領域を形成する。磁気シースの中で、太陽に面した部分は太陽風からの圧力が一番高く、かつ太陽風が遅くなって滞留することで、プラズマが高い温度に達している。この「滞留領域」を介して太陽風が金星の大気にエネルギーを注入していると考えられてきた。
過去の探査機は、観測装置や軌道による制約のため、滞留領域を詳細に観測できていない。また、これまでの観測は太陽の活動が極大期だったころに行われている。極大期の太陽からはより多くの紫外線が放射されるため、金星大気は電離しやすく、その結果、誘導磁気圏も強まる。太陽の紫外線が減る極小期こそ、バリアが弱まって太陽風が金星の大気に大きく影響する時期だと考えられるのだ。
そんな太陽極小期における金星の滞留領域を、2つの探査機が相次いで観測するという、またとない機会が巡ってきた。
そのうち1機が、日欧共同の水星探査ミッション「ベピコロンボ」だ。ベピコロンボはJAXAの水星磁気圏探査機「みお(MMO)」とヨーロッパ宇宙機関(ESA)の水星表面探査機「MPO」の2機で構成され、両者が一体となって水星に向かっている。その途上、2021年8月10日に行われた2回目の金星スイングバイで、「みお」とMPOの観測機が稼働した。
その前日には、ESAの太陽探査機「ソーラーオービター」も金星をスイングバイしていた。ソーラーオービターは金星へ飛来する太陽風に関する情報を集め、ベピコロンボは主に金星周辺の環境を調べて、太陽風の金星大気への影響に迫った。
研究結果を発表した仏・宇宙物理惑星科学研究所のMoa Perssonさんたちによれば、太陽風の影響は予想以上に小さいという。ベピコロンボは、太陽に面した金星の地表から約1900kmの高度を飛行したが、そこにも滞留領域が広がっていることがわかったのだ。これは、従来のモデルで予想された高度よりはるかに高い。金星の周辺環境は太陽風を減速させ、大気へのエネルギー注入を防いでいるようだ。
金星大気が太陽風からもらうエネルギーが予想よりも小さいということは、それに伴う大気の流出も少ないことを意味する。今回の成果は、金星の大気の長期的な進化を理解する上で重要なものとなるだろう。
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