初期宇宙における水素ガスの再電離は、場所によって進行具合にばらつきがあった。観測の結果、進行が早い場所ほど銀河が多い、つまり電離を引き起こす紫外線源が多い証拠が得られた。
【2022年8月30日 東京大学大学院理学系研究科】
約138億年前のビッグバンからしばらくして宇宙が冷えてくると、それまでばらばらだった電子と原子核は結びつき、電気的に中性の水素ガスとなって宇宙空間を満たしていた。その中で星などの天体が誕生すると、そこから放たれる紫外線によって電子は再び水素原子から引き離されてしまった。これが「宇宙の再電離」と呼ばれる現象だ。
宇宙の再電離はビッグバン後10億年程度で完了したとされるが、再電離の進行が速い領域があれば遅い領域もあった。このことは、遠方宇宙の明るい天体であるクエーサーを観測することで判明している。クエーサーの光が地球に届くまでに中性ガスの中を通過すると、特定の波長が吸収・散乱される。つまり、クエーサーのスペクトルの一部が暗ければ、その方向では再電離が進んでない(中性ガスが残っている)ことを意味し、同じ波長が明るいままであれば、再電離が進んでいるということになる。
再電離の進行度が同じでも、単純にガスの密度が高ければ、それだけクエーサーが減光されやすい可能性がある。だが、ガスの密度だけでは観測されるばらつきは説明できない。このように初期宇宙で再電離が一様ではなかった原因については、いくつかの説が唱えられていて、決着はついていない。
有力な仮説は、「紫外線輻射場のゆらぎ」と「銀河間ガスの温度のゆらぎ」の2つだ。
紫外線輻射場は、ある領域でどれだけ紫外線が放射されているかを示す。中性ガスは紫外線によって電離されるので、紫外線を発する天体が多い場所ほど再電離が進んだはずだというのが紫外線輻射場のゆらぎ説の考え方である。この説に従えば、再電離が速かった場所には多くの銀河が見られるはずだ。
一方、温度のゆらぎ説では、低温になると電子と原子核がくっついて中性ガスに戻る点に注目する。天体が生まれた場所は真っ先に電離されるが、その分だけ時間をかけて冷えるため、かえって中性ガスが多くなり再電離の完了が遅れるという考え方だ。この場合、再電離が進行している場所はむしろ銀河が少ない場所だということになる。
どちらの説が正しいかは、遠方宇宙の様々な領域を観測し、そこでの再電離の進行度と銀河の密度を比較すればよい。ただ、これまでの観測例は2つの領域に限られ、どちらも再電離の進行が遅い場所だったので、解釈の余地を残してしまっていた。
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻の石本梨花子さんたちの研究チームは、約128億年前の宇宙(赤方偏移5.7)から再電離の進行が極端に遅い領域と速い領域を含む3か所を選んで説の検証を行った。再電離の進行度は、既に観測されているクエーサーのスペクトルから判定している。さらに、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム」で撮影した画像から、銀河の分布を調べた。
その結果、再電離の進行が速い領域では銀河が多く、進行の遅い領域では銀河が少ないことが明確に示された。紫外線輻射場のゆらぎを原因とするモデルと一致する結果である。
今回検証された約128億年前という時代は、再電離がほぼ終わっていたとされる時代だ。今後の研究ではさらに古い時代も観測する必要があるだろう。また、今回は領域内の全ての銀河を数えたわけではなく、赤方偏移がはっきりとするようにライマンアルファ輝線銀河(波長121.6nmの紫外線を強く発する銀河)のみを対象としている。こうした銀河固有の性質が今回の結果に影響している可能性もあり、さらなる検証が求められる。
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