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Monday, May 31, 2021

「本当のことなんて言えない」正社員からパートに…妻の後悔 - 西日本新聞

復刻連載「産まない、産めない かつての事情」<2>

 不妊治療で、例えば排卵を誘発するホルモン剤を注射する場合、月経の始まった日の3-5日後から10日間前後、毎日病院に通わなければならない。

 フルタイムで働く女性にとってこれはとても大変なことだ。時間的に難しいのはもちろん、他にもさまざまな障壁が待ち受ける。

 北九州市近郊に住む美和さん(33)の場合、10年以上勤めてきた会社を辞めるところまで追い込まれた。

 6月中旬、市内の喫茶店で話を聞いた。

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 治療は2年前に結婚してすぐ始めた。排卵を抑えるホルモンが分泌されてしまう「高プロラクチン血症」という不妊症。飲み薬での治療から始めたので、当初は数日に1度の通院でよかった。

 その日は会社を休んだ。当時の仕事は衣料品会社の顧客相談センターの受付係。簡単には外出できない内勤だった。勤務中に通院するとなれば、その間は同僚に負担を強いてしまう。

 「それに途中で抜け出すには、上司に理由を説明しなくてはならないでしょう。『女として一人前の体じゃない』と思われるのが恥ずかしくて。本当のことなんて言えなかった」

    ×     ×

 業務の中では客の苦情に応対することも多い。「精神的なたくましさが必要な仕事」という。だが、治療との両立で集中力が分散され、日に日に仕事に取り組む意欲はそがれていった。

 「あのころはワイドショーで芸能人の出産のニュースを見るだけでも落ち込んでました。会社の同僚に子どもができたことを知らされたりすると、ものすごくショックで。いろんなことから逃げたくなって…」

 治療を始めて3カ月後、正社員からパートにしてもらうよう会社に申し出た。上司には「家事との両立が大変になってきたから」と説明した。

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 新たな壁が立ちはだかった。経済的な問題だ。

 不妊治療は、人工授精や体外受精になると原則的には保険が効かない。美和さんの場合、まだその段階までいたっていなかったが、それでもこれまでに検査や薬代などを合わせると10万円以上は使ってきた。実際には通院時に仕事を休むから、その分の給料を差し引くと、負担は倍になった。

 さらにパートになって収入が減った。夫にかかる負担はいっそう増した。「やっぱり正社員のまま続けていたほうがよかったのかもしれない」。自分の選択に迷いが生じてきた。

 夫に申し訳ない気持ち、他の仕事も任されるようになっていた時期に10年のキャリアを捨ててしまったことへの後悔、先の見えない治療への不安…。

 もともとアレルギー体質で風邪をひきやすく、頭痛持ちでもあった美和さんは、ストレスから体調を崩してしまった。

 パートになって3カ月後、美和さんは会社を辞めた。(文中仮名)

◆少子化に歯止めがかからない。もう何年も…。目を凝らすと、置き去りにされてきた家族の問題が浮かび上がってくる。子どもを望む人が産みやすい社会、産んでよかったと思える社会にするには-。1999年の連載を読み返し、考えるヒントにしてみませんか。文中の情報は全て当時のものです。

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