『地球最後の男』から『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』へ
「ゾンビ」はハイチのヴードゥー教に出自があるという。そのオリジナルのゾンビが何度か映画に登場する中で大きな論理の転換が入り、現在のような形になった。 【写真】絶望…死ぬ瞬間はこんな感じです。死ぬのはこんなに怖い 前編ではその転換を、"パンデミックの中で剥き出しになる人間の獣性"というテーマの導入のうちに見ておいた。 ゾンビはウイルス感染者である。それは人間の姿をした獣である。私を襲い、私をもゾンビに変える。そして獣としてのゾンビに立ち向かうには、私もまた獣にならねばならない。 このテーマの導入はしかし、いったい何を意味しているのだろうか。本編ではこのことを考えていく。 オリジナルのゾンビから、現在の私たちがよく知るゾンビ映画のゾンビへの転換は、具体的にはゾンビ映画の元祖とされる『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)で行われたものである。この映画が起点となり、のちのいわゆるゾンビ映画が大量に作られるようになった。 さて、この『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が、1964年の『地球最後の男』を参考にして作られたことはよく知られている。『地球最後の男』は、のちに『アイ・アム・レジェンド』(2007年)にもリメイクされた。 ウィル・スミスが活躍する『アイ・アム・レジェンド』(2007年)がその後のゾンビ映画の影響を受けているのに対して、1964年の『地球最後の男』はゾンビ映画成立前のゾンビのルーツをしっかりと保持している。その基礎構造をひもとくことで、ゾンビが何者かが見えてくるようだ。 そしてそこで得られる答えはさらに、私たちをパンデミックという現象がもつもう一つ重要な局面に導いていくことになる。 まずは『地球最後の男』の設定を確認してみたい。
『地球最後の男』――血とウイルス
『地球最後の男』と『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は大変よく似た映画である。 『地球最後の男』にも動き回る生きた死体が現れる。そして人を襲う。現在の我々が見ればまさにそれはゾンビ映画といってよい内容である。 いやゾンビとの共通点はそれだけではない。この生きた死体はウイルス感染したものである。 ゾンビ映画である『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が、ゾンビの増殖をウイルスではなく、宇宙からの放射線によって説明していることを考えると、『地球最後の男』こそが、その後のゾンビ映画にウイルス感染による生きた死体の出現という設定導入の根っこにあるものといえる。 しかしながら、ここでは生きた死体はゾンビとはよばれていない。では、彼らは何なのか。 それは吸血鬼である。 『地球最後の男』の生きる死体は、吸血鬼である。 吸血鬼は血を吸う。血を吸われた人間も吸血鬼となる。 この吸血鬼の拡大増殖作用を『地球最後の男』はウイルス感染によって説明し、吸血鬼を新しく現代風に仕立てているのである。それも感染の急速拡大による人類の最後をもたらすものとして。 同様にゾンビもまた襲われた者が血を媒介にウイルス感染する。 それどころかゾンビへの感染もまた噛まれることによっていて、我々が今気にしている飛沫感染などは想定されていない。だから人はゾンビと正面から組み合いながらも感染されずにすますことができる。 他方、オリジナルのハイチのゾンビには、血の要素も感染という契機もない。 血とウイルスは、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が『地球最後の男』の吸血鬼を経由してゾンビ映画に持ち込んだものということができる。 もっとも、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のゾンビは、『地球最後の男』の吸血鬼とは多くの点で異なるものでもある。 吸血鬼は胸を杭で刺されることで終わりを遂げる。『地球最後の男』の武器は木の杭である。 また吸血鬼は光に弱く、夜しか活動できない。そして鏡やニンニクを嫌う。これらはゾンビにはない吸血鬼の特徴である。
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