■英のピーター・ストリックランド、米のジャスティン・シミエン
日本国内での配給が見送られた映画を国もジャンルも問わずバシバシ紹介してくれる貴重な企画上映「未体験ゾーンの映画たち2021」にて、英米の注目監督による2つの恐怖映画が上映される。呪いのドレスを描いたピーター・ストリックランド監督の『ファブリック』と、呪いのウィッグを描いたジャスティン・シミエン監督の『バッド・ヘアー』だ。
奇しくも“おめかし”と“呪い”にまつわる恐怖を描いた、この2作。これから出世すること間違いなしの注目監督の実力を確認するという意味でも、ぜひ今のうちにチェックしていただきたい快作/怪作である。
英国の鬼才(オタク)が放つ仰天ホラー・コメディ『ファブリック』
2019年公開の『ファブリック』は、怪しいマダム、赤を基調とした照明、凶暴な犬などが映る予告編映像からして、後期マリオ・バーヴァ作品や『サスペリア』(1977年)などのダリオ・アルジェント作品の風味。正直、ルカ・グァダニーノによるリメイク版よりもよっぽどサスペっていて、ジャーロ(イタリア産スリラー)が好きならば大いに期待してしまうはず。この嗜好丸出し映画を手がけたのは、長編デビュー作『Katalin Varga(原題)』(2009年:日本未公開/未ソフト化)で第59回ベルリン国際映画祭銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞したピーター・ストリックランドだ。
しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いのA24配給作品というだけで話題性はバッチリのはずなのに、なぜ日本ではスルーされていたのか? その疑問は映画本編を観れば解消されるはず。『ファブリック』における偏執的・官能的な演出の変態っぷりは、お洒落ゴア番長ことアリ・アスター監督がヘルシーに思えてくるほどで、某シティボーイ雑誌とのコラボTシャツが即完した『ミッドサマー』(2019年)のプロモ作戦のような発想が介入する余地のない、つまりモノホンのヤバさが漂っているのである。本作における衝撃シーンのひとつ「経血を流すマネキンを見ながら自慰にふける老人」を例に挙げれば、そのハードルの高さがお察しいただけるだろう。
そんな本作の主人公シーラは銀行で働くシングルマザー(『秘密と嘘』[1996年]で知られるマリアンヌ・ジャン=バプティストの存在感が光る)。元夫に早くも新たな恋人がいることを知ったせいか、新聞の出会い系広告を利用したり、息子がガールフレンドとイチャイチャする様子を覗き見したりと、新たな恋にかなり飢えている様子だ。ある日、デートに備えてセール中のブティックを物色していたシーラは、腰のあたりに黒い花柄のワンポイントが入った真っ赤なドレスに目を留める。ちょっとサイズが……と悩みながらも怪しい女性店員(演じるのはストリックランド監督のミューズ、ファトゥマ・モハメド)の難解かつ強引なセールストークに押されてお買い上げし、さっそく着替えてデートに向かう。『ファブリック』というタイトル通り、本作のキモはこの赤いドレス(生地?)だ。
ドロリと流れる鮮血も、這い回るウジ虫さえも美しい……恍惚の4Kで『サスペリア』を観る日が来た!!実際ストリックランド作品のネタ元は、東欧の古典映画から往年のジャンル映画、さらにはZ級エログロ悪趣味映画にまで及ぶ。そういった深堀りしがいのある構成要素こそが映画好きの感性を刺激する所為なのだとは思うが、端々に垣間見える風刺やメッセージ性に囚われることなく、ダダ漏れる映画愛をシンプルに受け止めるのが正解なのでは? という気がしないでもない。
監督は音楽にも造詣が深く(というかオタクで)、本作のサウンドトラックはStereolabの主要メンバーによるクラウトロック/モジュラーシンセなユニット、Cavern of Anti-Matterという後期X世代らしいチョイス。ハープシコードやオルガンの音色が印象的な「The Dress Perspective」はまさにGoblinの「Suspiria」を彷彿させる、アルジェント作品で使用されていても違和感のない良曲だ。
ちなみにシーラとデートする中年男ザックを演じているのは、かつてBUZZCOCKS〜MAGAZINE、Nick Cave&The Bad Seedsのメンバーとして活躍し、デヴィッド・リンチに乞われ『ロスト・ハイウェイ』(1997年)などに作曲家として参加したバリー・アダムソン。さらに撮影監督はフローレンス・ピューの出世作『レディ・マクベス』(2016年)のアリ・ウェグナーと、地味に豪華。Primal ScreamやOasisのジャケも手掛けるジュリアン・ハウスによるポスターもカッコよすぎるので、このあたりの要素にビビッときたら迷わず劇場へ足を運ぼう。
■呪われたウィッグの恐怖を描くブラックカルチャー×ホラー『バッド・ヘアー』
本国ではHuluオリジナル作品として配信された『バッド・ヘアー』は打って変わって、シンプルに怖がれる王道ホラー映画……と思いきや、監督のジャスティン・シミエンは黒人文化への無理解に怒りと笑いをぶつけるシニカルなコメディシリーズ『親愛なる白人様』(Netflix:2017年〜)のベースとなった映画、『ディア・ホワイト・ピープル』(2014年)を手がけた2021年最注目若手監督の一人。韓国ホラー『鬘 かつら』(2005年)にも影響を受けているという本作は、黒人の独自性や文化の象徴であり差別対象にもなってきた“髪の毛”をテーマにした、あるようで意外となかったブラックカルチャー・ホラーだ。

主人公は、LAのブラックミュージック専門TV局(BETもしくは「Yo! MTV RAPS」をイメージ?)に務めるアナ(エル・ロレイン)。幼少時にリラクサー(縮毛矯正液)によって頭皮の一部に火傷を負ったトラウマを持つ彼女は、上司(ヴァネッサ・ウィリアムズ)から昇進の必須条件として、(白人社会に溶け込むための)最低限の“身だしなみ”という名目でストレートヘアーを要求される。
編み込む苦痛に耐えて“理想の髪”を手に入れたアンは自信が湧き出てモテにモテ、職場でもめきめき存在感を増していくが、どうにも髪が言うことを聞いてくれない。実は彼女の地毛に編み込まれたのは、定期的に“血液”を与えないと暴走する呪われたウィッグだったのだ……!
■ホラー映画のお約束を踏襲したチープでバッドテイストな恐怖描写
『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(1960年)などの“血を求めて成長する●●”というホラーの定番ネタに、黒人文化の重要なファクターである髪の毛をテーマに盛り込んだ本作。まだヒップホップが世界制覇する以前、ニュー・ジャック・スウィングが音楽の枠を超えて大流行し、それまで白人が支配していたMTVにも黒人音楽が浸透しはじめていた1989年を舞台にすることで、黒人たちが味わってきた辛苦(社会的な成功を妨げる差別)と長らく抱え続けているジレンマ(同胞からの抑圧など)を同時に、かつ自然に描写する。ただ、せっかくならば低俗ホラーの“お約束”的なシーンよりも、シミエン監督“ならでは”の要素を押し通すべきだったのでは? と首を傾げてしまう部分もなくはない。
ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』(2017年)や『アス』(2019年)の大ヒットによって黒人文化をテーマにしたホラー/スリラーの道が切り拓かれたが、短編製作からスタートした『親愛なる〜』のプロジェクトを大成功させたシミエン監督だからこそ、こういった意欲的なテーマに挑戦できた部分もあるだろう。正直に言うと“暴走するオバケ髪”の描写は超チープでイマイチ怖くないのだが、主人公のアンは『キャリー』(1976年)を彷彿させる気弱さと怪しさを兼ね備えた魅力的なキャラクターだし、おかげで70〜80年代B級ホラー特有のバッドテイストみも増しているので、そのへんは狙いの範疇なのかもしれない(一番キツいのはウィッグを編み込む超痛そうな描写だったりする)。
ともあれ本作は、デスティニーズ・チャイルドのケリー・ローランド、SNLの人気キャストだったモノマネ王ことジェイ・ファロー、『レディ・プレイヤー1』(2018年)のリナ・ウェイス、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(2013年ほか)のラヴァーン・コックス、みんな大好きアッシャー、そしてジェームズ・ヴァン・ダー・ビーク(『ドーソンズ・クリーク』[1998〜2003年]でお馴染み)という、絶妙なキャスティングも見どころ。
シミエン監督はランド・カルリジアンの活躍を描く『スター・ウォーズ』シリーズのスピンオフ作品にも抜擢されたようなので、今後のさらなる飛躍に期待したい。
『ファブリック』『バッド・ヘアー』はヒューマントラストシネマ渋谷にて2021年2月12日(金)〜2月18日(木)まで上映、シネ・リーブル梅田は上映日未定
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