アイドルグループを卒業後、タレント・俳優・YouTuberなど、幅広いフィールドで活躍を続ける市川美織さん。ただ、自由奔放に見える本人は、「どんなキャラでこれから仕事をしていけばいいか」悩んでいると言います。その市川さんの悩みに哲学者・岡本裕一朗教授はどう答えるのでしょう。
2限目のテーマは「本当の自分って何?」。どこからがキャラクターで、どこからが本当の自分なのか。そもそも、本当の自分は存在するのでしょうか。ふたつの自分、その境界線が分からなくなってきた、と語る市川さん。岡本教授は、意外なところにそのヒントがあると、哲学者の言葉を引き合いに出して説明します。
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>>1限目
「キャラクター」に悩むタレントの市川美織さんが、哲学者・岡本裕一朗教授に人生相談
私に向いているものが分からないんです
市川美織(以下、市川) 先生は1限目で、「本当の自分は僕にも分からない」って言っていたじゃないですか。私も今、同じようなことで悩んでいるんです。
岡本裕一朗(以下、岡本) こちらの悩みですね。
「よく、キャラを作っていると言われますが、自分でも本当の自分との境界線が分からなくなってきています」
市川 私は昔から自分のことをかわいいと思っていて(笑)、いつのまにか妹キャラと言われるようになったんですね。でも、大人になるにつれて自分に自信がなくなってきて、どんな人間なのか分からなくなってきたんです。
アイドルグループを卒業してからは、俳優としてお芝居に出させてもらったり、モデルとして雑誌に出させてもらったり、ファッションのデザイン、最近はYouTuberをやったりしているんですけど、どれも思っているほど結果が出ていないんです。それで、なんだか自分を見失っちゃっているというか。
岡本 そこまで悩む必要はないと思います。さすがに急に水泳の選手になると言われると「ん?」となってしまうけど(笑)。市川さんのお話を聞く限り、そうではないですよね。
市川 世間の風潮として、ひとつの道を突き進む人のほうがかっこいいと思われるじゃないですか。でも私は明確に「これがやりたい!」というのがないから、いろんなことに手を出して、どれも中途半端な気がするんです。いつかひとつに絞った方がいいのかなとも思うけど、私に向いているものがわからないんですよね。
岡本 結論からいうと、まず、ひとつに絞る必要はないと思います。自分が何に向いているか、ということも、やっぱり自ら決める必要はありません。それは他人が決めてくれるものだと思います。
市川 他人が決めるんですか?
岡本 これは、フランスの哲学者であるジル・ドゥルーズが言ったことなのですが、「個性とはつまり結果なのだ※」という考え方があります。
※ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ著、宇野邦一訳、『アンチオイディプス 上』(河出文庫)より意訳
つまり、自分の心のおもむくままにいろいろなことをやった上で、結果的に周りの人たちが「あなたってこういう人間なのね」と結論付けるということです。個性や自分のあり方というのは、自分で決めるのではなく、他人が決めることである、というスタンスですね。
市川 最初に自分で「これ」というものを決める必要はないんですね。
岡本 むしろ「こんな仕事は私がするべきじゃない」と最初から決めつけて制限することで、本当は周りの人から評価されたかもしれない仕事を寄せ付けなくなってしまうリスクもあります。だから、同時並行的にいろいろやることはまったく問題がないですし、リスクヘッジとしても良いかもしれません。
それに、市川さんのお話を聞く限りは、僕にはどの活動も同じような方向性でされているように思えます。YouTubeで知名度を上げることで、ほかの活動で得をするかもしれませんし、相乗効果が生まれることもありそうです。市川さんは焦点が定まらないのではなくて、同じ焦点の中でいろいろな仕事をしている、という捉え方のほうが正しい気がしますね。
市川 そういう考え方もできるんですね。たしかにどれもつながっているかもしれません。すごく腑(ふ)に落ちました。
「これなら私にもできそうだ」が大切
岡本 市川さんは、今の活動はどれも自分がやりたくて始めたんですか?
市川 そうですね! 自分の好きなものをやってみたかったんです。俳優やモデルの仕事も楽しいし、ファッションも好きだし、YouTubeも休日はずっと見ていたりして、自分もやりたいなって。好奇心から始めたんです。
岡本 実は、その直感ってとても重要なんですよ。自分に合った仕事が分からない中で、では何を基準に選ぶかというと、「自分ができるかどうか」という点です。
何かを見ていて、「これなら私にもできそうだ」と感じることは、あらゆる職業においても大切にすべき感覚だと思います。そうやって自分ができそうなことをやっていくうちに、周りが評価してくれるときが来るかもしれない。
市川 いつまでたっても周りに評価されないときは、やめるべきですか?
岡本 やめどきは難しいし、一概には言えません。でも、どれだけやってもダメだったり、自分が苦しくなってしまったりしたら、撤退するのはいいと思います。それはネガティブなことではないし、戦略的なものです。戦略的撤退ですね。
それに、やりたいことをひとつに絞る必要はないと思いますよ。絞ってしまったがために、ほかの仕事が来なくなることもあるでしょうし。リスクが大きいと思います。誰かが「やってもいいよ」と言ってくれているときは、絶対にやるべきだと思います。
市川さんは、今後、ほかにやってみたいことはありますか?
市川 そうですね……これは昔からずっと言っているんですけど、社長になりたいです!
岡本 社長、ですか。
市川 でも、何をどうすれば社長になれるかは全然分からなくて。とにかくそういう肩書に憧れがあるんですよね。「社長です」って言いたい。
岡本 肩書というのは、とても分かりやすい個性のひとつですからね。自分の説明もしやすくなる。ただ重要なのは、そういった肩書を手に入れようとするときは、「こういうことをしてみたい」という漠然としたイメージを思い浮かべるのではなくて、具体的なイメージを持つことです。
たとえば、哲学をやりたいという人がいるとします。ぼんやりと「哲学をやりたい」と考えていると、なかなか進むべき道が見つかりませんが「こういう哲学者になりたい」と明確なモデルを想像するとどうでしょうか。あいまいなイメージを持つよりも直接的にやりたいことが見えてきますし、モチベーションは上がると思います。
市川 たしかに、それだと現実味がありますね! 仕事もキャラクターのひとつとして考えれば、もっと柔軟に選択肢が出てくるのかも……って思いました。年金の不安もありますし、社長になって、老後は安泰で、楽をして稼げるように頑張りたいと思います(笑)。
(文・園田もなか 写真・持田薫)
プロフィール
岡本裕一朗(おかもと・ゆういちろう)
1954年福岡県生まれ。玉川大学文学部名誉教授。九州大学大学院文学研究科哲学・倫理学専攻修了。博士(文学)。九州大学助手、玉川大学文学部教授を経て、2019年より現職。西洋の近現代哲学を専門とするが興味関心は幅広く、哲学とテクノロジーの領域横断的な研究をしている。『哲学の世界にようこそ。』(ポプラ社)、『世界を知るための哲学的思考実験』(朝日新聞出版)など、著書多数。
市川美織(いちかわ・みおり)
2010年にAKB48のメンバーとして活動開始。2014年にNMB48へ移籍。 2018年5月1日NMB48を卒業し48グループとしての活動を終了。 女優、バラエティ番組への出演、モデルをはじめアパレルとのコラボやYouTuberなど クリエーター方面でも活動中。 代表作に舞台「放課後戦記」(主演)、「こと〜築地寿司物語〜」、映画『放課後戦記』(2018年4月公開、初主演)など。 2014年3月「広島レモン大使」、2017年11月「久喜市くき親善大使」就任。PHOTOBOOK『なりたいの、わたし。』(ぶんか社)、ファースト写真集『PRIVATE』(玄光社)が発売中。 主演舞台「路地裏の優しい猫」(4月1日~5日東京芸術劇場シアターウエスト/5月9日~10日近鉄アート館)に出演。
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February 26, 2020 at 12:11AM
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「本当の自分って何?」 市川美織さんが抱える心配事の解決策は、意外と身近なところにあった - 朝日新聞
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