Research Press Release
Nature
2024年2月29日
ヒト上科動物(ヒトと類人猿)の進化の過程で尾が失われたことの遺伝的基盤を洞察する上で手掛かりとなる知見を報告する論文が、Natureに掲載される。今回、マウスを使って胚の発生をモデル化したところ、「ヒト上科動物に特異的な遺伝因子」が「尾の発生に関連する遺伝子」に挿入されると、タンパク質の新たなアイソフォームが産生されるようになり、これが尾の伸長を阻害することが判明した。この結果は、この遺伝因子が、ヒトと類人猿の尾の喪失の一因になったことを示唆している。さらに著者らは、ヒトと類人猿では、進化の過程で尾が喪失したために神経管欠損症が発生しやすくなった可能性があるという見解を示している。
ヒト上科動物(ヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、テナガザルなど)は、他の霊長類種と異なり、尾を持たない。尾が失われたことは、ヒトや他の類人猿につながる進化系統で生じた最も顕著な身体的変化の1つだ。しかし、ヒト上科動物の進化において尾の喪失を促進した遺伝的機構は解明されていない。
今回、Bo Xia、Jef Boeke、Itai Yanaiらは、ヒト上科動物の尾の喪失の原因となった可能性のある変化を見つけるため、脊椎動物の尾の発生に関連する140の遺伝子を調べて、ヒト上科動物の祖先のTBXT遺伝子(尾を持つ動物の尾の発生に関連する遺伝子)の特定の部位に特定のAlu配列が挿入されたことが尾の喪失に寄与した可能性があるという仮説を立てた。この仮説を検証するため、著者らは、Tbxt遺伝子の完全長アイソフォームとエキソン欠落が生じたアイソフォーム(ヒト上科動物においてAlu配列の挿入によって誘導される)の両方を発現するマウスモデルを作製した。その結果、Tbxt遺伝子の2種のアイソフォームの両方を発現するマウスは、胚の尾芽での発現量の割合に応じて、尾を持たないか、または尾が短いことが判明した。著者らは、この結果が、エキソンの欠落が生じたTbxt遺伝子のアイソフォームが尾の喪失の一因であることを示す証拠になると示唆している。また、エキソンの欠落が生じたTbxt遺伝子のアイソフォームを発現するマウスが、神経管欠損症を発症する可能性があることも判明した。ヒトの場合、新生児の約1000人に1人が神経管欠損症を発症している。
著者らは、進化における尾の喪失は、今でもヒトの健康に影響を及ぼし続ける神経管欠損症の発症可能性という適応コストを伴うものだった可能性があるという考えを示している。神経管欠損症の例としては、母親の子宮内で脊椎が正常に形成しなかった二分脊椎症などがある。
doi:10.1038/s41586-024-07095-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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