いよいよ発売となる「メガドライブミニ2」。発売を心待ちにしているユーザーも多いだろう。GAME Watchでは、本日より10月27日の発売まで「メガドライブミニ2」特集を展開していく。本特集の先駆けとなるのは、「メガドライブミニ2」の中心人物であるセガの奥成洋輔氏へのインタビューだ。
今回、あえてインタビューのテーマを「メガCD」にフォーカスすることで「メガドライブミニ2」ならではの魅力を深掘りしたい。「メガドライブミニ2」にはカートリッジタイトルが30本、メガCDタイトルが20本、新規タイトルが10本収録されているが、メガCDを中心に置くことで、改めてメガCDというハードの立ち位置や、メガCDを牽引したメーカーであるゲームアーツというメーカーに関してなどで質問を重ねてみた。
「シルフィード」をはじめ、メガCDタイトルは「当時のゲームの最先端だったが、プレイした人が少ない」というものが多いのではないだろうか? メガCDはハードの普及台数が少なく、その先端性に触れることができる人は限られていた。「メガドライブミニ2」発売で、ついにプレイできる機会を楽しみにしている人も多いだろう。奥成氏と共に改めて「メガCD」というハードを振り返ってみたい。
「メガドライブミニ2」の大きな目玉は、メガCDタイトルの収録!
「メガドライブミニ2」は6月に「セガの新プロジェクト発表!」と大きくアナウンスされた中での発表だった。そこから7月、8月にかけ30本のメガドライブタイトル、20本のメガCDタイトル、そして10本のオリジナルタイトルが段階的に発表され、ユーザーの期待はうなぎ登りに上昇した。
ユーザーにとって「どのタイトルが収録されるか」はもちろんだったが、「オリジナルタイトル」に強い関心が集まった。当時のメガドライブには収録されていないメガドライブのタイトル。そのユニークさは「メガドライブミニ2」を特別な"新ハード"としても認識させた。それはもちろん3年前に発売された「メガドライブミニ」において、当時なかった「メガドライブ版テトリス」、「メガドライブ版ダライアス」という2本の"新規タイトル"を収録し、大きな反響を得たからだ。
「『メガドライブミニ2』ではいかに予定調和にしないか、それを考えました」と奥成氏は語った。予定調和というのは「メガドライブミニ」という前作がある以上、ユーザーは「発表イベントやタイトル紹介はこうで、商品規模はこう、ボリュームはこのくらい」という予想をする。これをいかに裏切り、驚かせられるかをまず重視したという。
それは商品仕様のみならず、プロモーションでも掲げていた目標だった。前作では隠し球であったオリジナルタイトル、「メガドライブ版テトリス」、「メガドライブ版ダライアス」を発表した最終発表イベントのユーザーの同時接続数が最大だったのだが、「メガドライブミニ2」では最初の発表イベントでこれを上回り、今回の最終回ではさらに大きい数字を得られた。ユーザーの予想を裏切り期待を増す、という目標を意識していたからこそ得られた好評であり、奥成氏自身はこの結果が得られたことに安心したという。
「『メガドライブミニ』は任天堂さんの『ニンテンドークラシックミニ』という素晴らしいハードの成功があったからこそ生まれた商品です。他のメーカーからもミニが出てくる流れで『メガドライブミニ』は生まれました。この流れだと次は『セガサターンミニ』や『ドリームキャストミニ』でもおかしくなかった。しかし『メガドライブミニ2』なわけです。映画でも2って、前作をなぞっておとなしくなってしまう。だからこそユーザーの予想を超えるものにしよう、そう目標を持っていました」と奥成氏は語った。
「メガドライブ版ダライアス」を手がけた小西秀樹氏は、以前に「ファンタジーゾーン」も個人で制作していた。だから「2」ではきっとこれは入るだろう。でもそれだけでとどまらない。これはもちろんやる前提で、最後の目玉ではない、というのが「メガドライブミニ2」の指針になった。発売日までいかに「メガドライブミニ2」を楽しみにしてもらえるかを考え、プロモーションを行なっていたという。
そのユーザーへのサプライズの大きな要素の1つが今回の目玉ある「メガCDソフトの収録」である。しかも第1弾として発表されたのがゲームアーツの「シルフィード」である。この衝撃は大きく、ファンからの反応は激しかった。
「メガCDというハードの上で、"代表となるタイトルは?"という問いをしたとき、誰に聞いても出てくる名前は実はセガのタイトルではない。『シルフィード』だったり、『ルナ エターナルブルー』であったりと、ゲームアーツさんの作品なんです。もちろんセガも色々タイトルを出しているんですが、"メガCDの看板"としてはゲームアーツさん、というところだと思うんです」と奥成氏は語った。だからこそメガCD収録タイトルの最初の発表は「シルフィード」だったとのことだ。
今回「メガドライブミニ2」に収録されるメガCDタイトルは20本、何を入れるか? というところは社内で検討を重ねたが、その中で「メガドライブミニ2」の方向性を提示するのは「シルフィード」であり、ゲームアーツのタイトルを収録していくという姿勢を見せたかった。第1回目の発表は、メガCDソフト5本、前回収録されなかったが要望の高かったメガドライブソフト5本、そしてオリジナルタイトル発表をすることで、次回以降への期待も盛り上げていったという。そのアプローチは非常に効果的であり、ファンの「メガドライブミニ2」への期待は大きく盛り上がった。
ここで少し原点に戻る質問をしてみた。そもそも前作「メガドライブミニ」にメガCDソフトが収録されなかったのはなぜだろう? 「単純に技術的な問題、というのはありました」と奥成氏は答えた。そもそも「メガドライブミニ」は最初は短期間での開発・発売を目指した小さなプロジェクトだった。20~30タイトルくらいの代表タイトルを収録し、「メガドライブというハードはこんなゲーム機だったよね」という印象づけることを目指してハードの仕様を決めていった。
その上でメガCDタイトルは"リスク"があった。それまでメガCDタイトルの移植はセガでは行なったことがほとんどなく、技術的にはチャレンジの要素が大きかった。「今回は手堅く」という考えのもと「メガドライブミニ」ではメガCDタイトルを扱わないことは早い段階で決まったという。それは「メガドライブミニ」が小さなプロジェクトではなく、全世界発売、収録タイトル増加、と基本仕様を大きく変える流れでも変わらなかったとのこと。
メガCDタイトルの収録へのハードルは、「メガCDは単純な"メガドライブ用のCDドライブ"ではなく、新しいハードウェアとして生まれ変わっている」というところにあった。メガCDはメガドライブの"拡張パワーアップユニット"であり、本体よりクロックの速いCPUを搭載し、PCMサウンド機能を追加などハードの性能そのものが変わってしまっていた。このため、メガドライブタイトル収録の過去の開発ノウハウだけではカバーできなかった。
ちなみに「メガドライブミニ」と「メガドライブミニ2」の内部の基本構成はほぼ同じだという。SoC(System on Chip:装置やシステムの動作に必要な機能のすべてを、1つの半導体チップに実装する方式)は少しクロックが速いものとなっているが基本は同じとのことである。
もちろんメモリをCDタイトル収録のために増量しているし、ソフトを開発したM2はプログラムでの高速・最適化などのアップデートを行なっているものの、「基本は変わらない」とのこと。だからこその「2」であり、メガドライブタイトルの移植などは前作のノウハウがそのまま活用できている。今回、「2」が出ることで、メガCDタイトルへのチャレンジをしてみようと言うことになったとのことだ。
「タイトルは知っているけど遊んだことがない」、ゲーマーが密かに憧れたメガCD
今回「メガドライブミニ2」で盛り上がる中筆者が感じたのは、「ひょっとしてメガCDって思った以上にマイナーハードなの?」ということだった。筆者はメガCDを1991年12月12日の発売日直後に買い、様々なメガCDタイトルを遊んでいた。しかし今回、「メガドライブミニ2」の収録タイトルの発表の上で、メガCDタイトルへのファンの反応は「やってみたかった」、「そんなゲームがあったのか」といったプレイをしていない人の意見が多かったのである。確かに考えてみれば筆者のゲーム仲間にもメガCD所有者は少なかった。「メガドライブミニ2」は改めてメガCDを遊んだ人の少なさを筆者に実感させた。
メガCDの普及のネックとなった理由の1つに価格がある。当時49,800円という価格は高価で、気軽に買える値段ではなかった。しかも発売時期はメガドライブが出てから3年後であり、「メガドライブの資産」というものも確立しており、「CDじゃないとできないゲーム」というイメージを強くアピールできなかった。
メガCDが出た後もカートリッジタイトルが多く発売された。これは海外でのGENESISの好評が大きいという。この点はNECの「PCエンジンスーパーCD-ROM2」と明確な差でもある。PCエンジンは年を追うごとにほぼすべてのゲームがCDで供給されるようになり、ユーザーは「CD-ROM2を買わなければ!」という意識になったが、メガCDにはそういう流れはなかった。「カートリッジとCDを並行して進める」というのがセガの方針だった。
メガCDの価格に関しては低価格版のメガCD2が1993年に発売されるが、その後1年以内にユーザーの注目は「セガサターン」、「プレイステーション」といった次世代機に移っており、メガCD2を、というユーザーはそれほど多くなかった、というのが奥成氏の実感だという。
「一方で『メガCDでしか遊べないタイトル』というのは多かったんです。いくつかは他のハードに移植されたり、リメイクされたりもしていますが、『シルフィード』もそうですが、その後も移植されなかったタイトルが多い。当時のゲーム雑誌では取り上げられたタイトルも多くて、『タイトル名は知っているけど遊んだことがない』というソフトが多いんです。当時のゲームの盛り上がりは大きかったですし、楽しい記憶として"冷凍保存"されている。触ったことがないけど知っている、というタイトルをぜひ触ってもらおう、という想いが、メガCDタイトル収録にはあります」と奥成氏は語った。
とはいえメガCDはやはりマイナーハードであり、「メガドライブミニ2」を"メガCDタイトルのみ収録したハード"にしてしまうと、対象ユーザーが限られてしまう。メガドライブの人気が高い、しかし「メガドライブミニ」の収録から漏れてしまったソフトを30本、メガCDタイトルを20本、そして驚きの新タイトルを10本というのが、「メガドライブミニ2」の収録割合となったとのことだ。
メガCD発売日、奥成氏はセガに入社する前であり、1メガドライブユーザーとしてその日を迎えた。やはり値段がネックで、「そのうち買おう」と考えていたのだが、ローンチタイトルの「天下布武~英雄たちの咆哮~」が売っているのがわかり、本体と同時購入したという。ただその後メガCDでやりたいソフトはあまり発売されず、カートリッジのゲームをしばらく遊んでいたとのこと。
「ただメガCDを買う前に、友達がPCエンジンスーパーCD-ROM2を持っていて『ゲームはCDでこうなるのか』と驚いた記憶がありました。メガドライブならもっと楽しませてくれるんじゃないか、という期待はあったんです。『天下布武』のボリューム感やBGM、ムービーはCDソフトならではだ、と思いました。『ぎゅわんぶらあ自己中心派 2 激闘! 東京マージャンランド編』も驚かされましたし、メガCDのポテンシャルの高さは実感していました」と奥成氏は語った。
奥成氏が出したタイトルはどちらもゲームアーツのタイトルである。奥成氏のみならず当時のメガCDユーザーの多くが「メガCDはゲームアーツのソフトなら間違いない」という認識があった。
実はゲームアーツはメガCDで非常に重要な役割を担っていたと奥成氏は当時のエピソードを紹介した。ゲームアーツは幾つものタイトルを自社ブランドで発売しているだけでなく、PCで発売されていたゲームの移植も担当していたという。名作近未来アドベンチャー「ライズ・オブ・ザ・ドラゴン」、地球環境シミュレーション「シムアース」、スペースシューティング「ウィングコマンダー」といったタイトルもゲームアーツが移植を担当したとのこと。どのタイトルも非常に丁寧なローカライズと高いゲーム性が印象的である。まさにゲームアーツはメガCDを支えたメーカーだったのだ。
ゲームアーツはメガCDの開発にも深く関わり、ハードのメモリを6MBitにすることを強く望んだという。このためメガCDの価格が上がることになったが、「ハードの価格が上がった責任は取る」といった勢いでゲームアーツはメガCDに入れ込んだ。この事情は、実は最近のインタビュー記事で知ったとのことだ。
今回の「メガドライブミニ2」では、メガCDタイトル20本のうち4本、「シルフィード」、「ルナ ザ・シルバースター」、「ルナ エターナルブルー」、「天下布武」がゲームアーツタイトルである。他にもファンから望まれたゲームはあったが、残念ながら収録されなかったが、この4本と、カートリッジタイトルの「ぎゅわんぶらあ自己中心派 片山まさゆきの麻雀道場」は多くのファンの記憶に残っているソフトである。
奥成氏は「メガドライブミニ2」では、開発がスタートする前の段階から、ゲームアーツへライセンス協力の話をしに行った。「『メガドライブミニ2』に必要なのはメガCDであり、ゲームアーツさんのソフトだ」という想いがこの企画の原動力であった。ゲームアーツは温かく協力してくれたという。
だからこそ「メガドライブミニ2」では、「『シルフィード』がきちんと動く環境作り」が大きな基準点になった。メガCDで遊んだ感覚と同じように「シルフィード」が動くというのがM2の目標の1つであり、プロジェクトのキモとなった。今回の「メガドライブミニ2」において「シルフィード」は最大の目玉と言える存在だったのだ。
「ゲームアーツさんは、権利関係の許諾もご尽力いただけました。『ルナ』シリーズに関しては、サターンとPS向けにリメイクが作られていますが、あえてメガCD版のオリジナルが両方遊びたいんです、というこちらの想いに賛同していただけたのもありがたかったです」と奥成氏は語った。
筆者にとってもメガCD版「ルナ」シリーズは思い入れが深い。インタビュー中ではあるが、思わずシリーズへの、特に1作目の「シルバースター」への思いを語ってしまった。奥成氏は「ゲームとしては2作目『エターナルブルー』の方が断然完成度や、システムの充実、キャラクター性などが高いんですが、『シルバースター』はメガCDユーザーが望んで待ちに待ったメガCD専用の大作RPGだったので、思い入れを持っている人は少なくないと思います。1990年代はまだゲームの文法が固まってなくて、ゲームを作る人達の熱意や試行錯誤を感じさせるタイトルが多いですが、『ルナ』シリーズでもそれは強く感じました」とコメントした
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