PlayStation 5/PlayStation 4用ソフト「グランツーリスモ7」(GT7)を開発する「グランツーリスモ」シリーズプロデューサーの山内一典氏が、3月4日の発売を前に報道陣にインタビューに答えた。
山内氏が歴代グランツーリスモシリーズの頂点と位置付けるグランツーリスモ7では、よりリアリティーを追求する一方で、自動車の文化を次世代のクルマ好きに伝えるミッションにも取り組んだ、クルマへの愛と尊敬に満ちた作品として仕上げられた。
リアリティーへの取り組みでは、より自然なコンディションの変化を実現させるために、時間変化、天候変化は見た目だけの演出ではなく、路面温度等に影響を与え、結果的にタイヤのグリップやエンジンパワーに影響するなど、自動車の物理シミュレーションに密接に関係するようになった。雨が降るとコース上の水が多い場所ほどグリップが低下し、やがて通過する車両が多い走行ラインから乾きはじめ、徐々にグリップが回復していく……そんな自然なコンディションの変化を実現させている。
2月3日に公開されたオンライン新作発表会「State of Play」の中で明らかになった「グランツーリスモ7」の内容を踏まえて、各国のメディアからの質問に、山内氏が答えた。
山内氏:グランツーリスモのローンチの時には、いつもイベントがあってメディアの皆さんの前でお話をするのですが、その中のメディアの皆さんの中にはもう長年グランツーリスモをウォッチしてくださってるような方もいらっしゃってね、今回そういう機会がもてないのは、すごく残念なんですけれども。こういう形で何にせよ、僕らが作っているグランツーリスモ7についてのプレゼンテーションをして、皆さんとのセッションが設けられたことについては感謝しています。
──今回のグランツーリスモ7で、よりリアルに没入感が得られるためにどういったことを話したんでしょうか?
山内氏:没入感を得る仕組みっていうのは、僕らが感じているリアルそのものにどれだけ近づけるかってことなのです。つまり、リアリティーってことですけれども。グランツーリスモ7では、当然グラフィックス、レイトレーシングをはじめとするグラフィックのクオリティーを本当にリアリティーを高める方向で使う。サウンドに関してもものすごく愚直に、ストレートによりよいサウンドをレコーディングして、よりよいサウンドを作っていくってことだと思います。
今回、PS5ではハプティクスのデバイスがありますから、本当に音と振動の間の領域というものの表現ができるようになったので、そこをきちんとシミュレーションベースで表現する、そういった小さなことの積み上げが、没入感につながるんじゃないかと思います。
──中古車のシステムというのは、これまでのシリーズのように、ランダムにローテーションでクルマが変わって、そこからプレーヤーが選べるようになるでしょうか?
山内氏:中古車にラインアップされている一部が、少しずつ毎日入れ替わっていく、ちょっとずつちょっとずつ入れ変わっていく感じになると思います。
──これまでの25年間で、山内さんが1番感動した瞬間は、どんな時だったでしょう?
山内氏:それぞれのタイトルごとに、ある日、何かが生まれて、それがここから世界を変えることになる、そういう経験ってあるんですよね。で、そういうことが生まれた瞬間、その日の夜っていうのは、すごくハッピーになりますよね、何かを見つけた!っていう。
──これまでのグランツーリスモシリーズは、時間と天候変化が入ってましたけど。グランツーリスモSPORTまでは限定的な形で登場していました。今回のグランツーリスモ7では、どういう形で導入されるのでしょうか?
山内氏:まず、時間変化は朝から夜までの変化というのは全てのコースでしています。しかし、夜から朝までは一部のトラックだけがサポートしています。例えば24時間レースが行なわれるル・マンとかスパ、デイトナとかそういうコースですね。ニュルブルクリンクなんかもそうですね。
天候の変化の方は、晴れから曇りまでの変化というのは全てのコースでします。ただ、雨が降るトラックというのは限定的です。
今回の時間と天候の変化で僕らにとって1番のチャレンジというのは、それをビジュアルなグラフィックのエフェクトではなくて、完全にフィジックスシミュレーションベースでやるってことだったんですね。ウェザーシミュレーションにせよ。
しかも、それがちゃんとトラックを走っているクルマのフィジックスにも相互作用して、路面温度が下がってきたとか、路面がぬれてきたと、あるいは乾いてきたとか、そういったことがきちんとフィジックスと連動するようになった。そこは、すごい大きなチャレンジでしたね。
──400台以上収録されたクルマのサウンドはどういうふうに収録したんでしょうか?
山内氏:グランツーリスモSPORTの開発のころから、ノースアメリカとドイツとUKにサウンドレコーディングスタジオがあって、そこは無響室になっていて真ん中にダイナパックがあるんですね。ハブに直結する方式のシャシーダイナモのことなんですけども、そこでサウンドのレコーディングをしています。相当手間のかかる作業ですね、そこにクルマを運びこんだりということも含めて。
──カフェの構造は、キャンペーンをどういうふうに手助けするような形式になってるでしょうか?
山内氏:グランツーリスモは巨大なタイトルなので、基本的にはグランツーリスモのいろいろなシステムを理解すると、プレーヤー自らが遊び方を見つけて、何年でも遊んでいられるようなタイトルなんですね。おそらく1年たってから気づくようなそういう機能なんかも出てくると思いますけれども。それが、あまりにも巨大で複雑なので、カフェは、そこに行ってみればそのシステムを理解するところまでの道しるべとして機能することになります。
カフェでメニューブックをもらって、目標が示される、それはそんなに難易度の高い目標ではありませんけれども、それを順番にやっていくことで、最終的にはグランツーリスモの世界で、何ができるのかっていうことを理解できるようになる、そういうことですね。
カフェには、プレーヤーがコレクションしたクルマについての解説をその都度、マスターから聞けるんですけれども、それに加えて、そのクルマをデザインしたデザイナーであるとか、エンジニアであるとか、そういった人たちがそのカフェに現れて、そのクルマについて話してくれる。
これ、どういうことかというと、やっぱりそれもまたクルマの文化の1つなんですよね。グランツーリスモSPORTからミュージアムってセクションが加わって、そのミュージアムと同じようにグランツーリスモの中に、あるクルマに関わった人が登場する。そういうことがすごく今後のグランツーリスモにとってとても重要だと思っています。だから、クルマが入ってるだけではなくて、そのクルマを作った人、デザインした人っていうのも、今後どんどん増えていくってのがグランツーリスモ7の世界ですね。
──グランツーリスモ7のAIは、どういうふうに進化したでしょうか?
山内氏:AIって本当に終わることのない進化が求められてるところなんですけれども、以前のグランツーリスモSPORTと比べるとですね、よりアグレッシブに人間のラップタイムに近づくような走りができるようになったということと、複雑なシチュエーションにおいて、より的確な、この“的確な”っていう内容はすごくさまざまですけれども、的確な行動ができるようになったこと。ユーザーと競り合うこと、あるいはユーザーに不快な思いをさせないこと、いろいろな要件がありますけれども、そういった細かい部分で進化しています。でも、これがパーフェクトとは思っていないですけれど。
──グランツーリスモ7のミュージックラリーは、他のレースゲームにあるチェックポイントモードとは、どう違うんでしょうか?
山内氏:ミュージックラリーの最大の目的は、1つはもう音楽そのものを楽しんでほしいっていうことです。もう1つは初めてグランツーリスモをプレイするようなこれまでレースゲームを一切行なったことがないような子供が遊んでも楽しめるようなものにしたかった。
ミュージックラリーって、最初にビートを持っていて、エクステンドゲートを通過することにビートが加算されていくんです。でも、それはビートであって、秒が加算されるんじゃないんですね。だから BPM の速い曲というのはビートの消費も早いですし、BPMの遅い曲というのはビートの消費も遅い、曲の途中でBPMが変わるような場合には、ビートの消費が早い時もあれば遅い時もある。だから、ミュージックラリーというモードは、音楽っていうのが基本にあって、音楽を聴きながらドライブを楽しむ、で何で距離を表示するかって言うと、それでもすごくうまい人たちの中には競争したい人がいますよね、フレンドランキングとかで、そういう人たちがフレンドランキングで競争できるように、到達距離っていうものも表示してるんです。
上手な人にとっては、ビートを余らせてフィニッシュすることはできると思うので、例えば、自分のプレイの中で“ちょっとここでドリフトしてみようかな”と思ったり、ここで“3-6をしようかな”とか、そういうこともやっていいと思うんですよ、でその上でそれがミュージックリプレイで再生されますから、そういった遊び方をミュージックラリーはできるんじゃないかなと思います。
──クルマカルチャーが興味を失われつつあって、特に若い世代の興味が失われつつあるという話をされていましたが、彼らの心にどういったものを山内さんは植え付けたいとお考えなんでしょうか?
山内氏:そうですね、クルマはすてきな存在であること、クルマは人類が生み出したさまざまな工業製品の中でも、とりわけある種の生命性があって美しいものであるというのは今でも変わっていないので、それを伝えるよい機会になりたいというふうに思っています。
──GT7はオンラインで接続してないと遊べないと聞いていますがその理由は何でしょうか?
山内氏:はい、1つはですね、ゲームシステム全体が例えばショーケースであるとか、オンラインコンペティション、オンラインマルチプレーヤーであるとか、オンラインじゃないとできないものがたくさんあるということと、あとセーブデータのチート対策をするときに、オンライン側にセーブデータがないとそれは防げないので、そういう仕様になっています。
──PS5の機能において、グランツーリスモ7で1番重要だったと思う機能は、どういった部分でしょうか?
山内氏:これは、どのPS5タイトルを作っている方も同じことを言うんじゃないかと思いますけれども、やっぱりローディングスピードの速さですよね。特にレースゲームって、ワールドのデータをとにかく一度に全部読みこんできて、それでレースが始まるもんですから、ブロックブロックごとに例えば外部のストレージからデータを読むってことができないんですよね。
だから巨大なデータを外部のストレージからメモリー上に持ってきて、動かすのがレースゲームなんですけれども。ですから、PS4でやるとだいたい1分ぐらいかかるローディング時間が、PS5でやると本当に1秒とか、1秒かからなかったりもするので、その差はプレイ体験としてものすごく大きいですね。
──グランツーリスモ7というのは、クルマのカルチャーもレースと同等に表現されて、すごくクルマへの情熱が感じられる形になっています。そういった意味で、山内さんにとって自分の心に近いというか、そういったタイトルなんでしょうか?
山内氏:そうですね。やっぱり、僕はその何て言うのかな、すてきなものはきちんと若い世代に伝えたいと思っていて、僕クルマ大好きですからね。で、クルマの産業に携わっている方々ともたくさんお会いして、もちろんレーシングドライバーとかそういった方々とお会いして、文化、歴史みたいなものをね、次の世代に引き継いでいかなければいけないっていう責任感みたいなものはすごく感じてますよね。
──グランツーリスモシリーズでは音楽は常に割と重要な要素であったんですけど、今回これほどまで音楽にまた注目したのはどういった目的があるんでしょうか?
山内氏:そうですね。いずれ音楽というピースを、これまでと違った形でグランツーリスモにインテグレートしたいって思いは、ずっと以前からあったんです。
ポリフォニー・デジタルのスタジオのサウンドルームがあるわけですけれども、そこに僕を含め何人かのスタッフで毎日集まっては、夕方から夜にかけてピアノを弾いたり楽器を演奏したり、いろんなことをやってたんですね。そんな中で今回のミュージックリプレイだったり、そういったアイデアが出てきて、それをきちんとなんとかグランツーリスモにインテグレートすることに成功したわけです。そうですね、それには5年ぐらいの時間が必要だったっていう感じがしますね。
──チューニング機能はすごく複雑な設定が可能になってますが、セッティングデータというのは、ショーケースや違う形で他のプレーヤーと共有したりすることもできるのでしょうか?
山内氏:ショーケースでセッティングデータそのものを共有することはできないんですけれども、今回のセッティングスクリーンって、情報がびっしり入ったようなスクリーンで構成されていて、何枚かの画面キャプチャを取れば、それをほかのプレーヤーに共有したりできるように配慮してデザインはしています。
セッティングデータを簡単にシェアできない理由はいくつかあるんですけれども、それぞれのクルマに対して、どんなチューニングパーツが付いてるのか、どんなエアロパーツがついてるのかってことは、プレーヤーごとに違いますよね。ですから、あるセッティングデータを別のクルマにアプライした時にいろいろな不正合が生じてしまうので、それができないんですね。
──山内さんは、クルマは世界を反映した存在だと話していましたけれど、グランツーリスモ7というのは、現在のクルマ会社をどういうふうに反映しているんですか?
山内氏:そうですね。長い間グランツーリスモ作ってきて、自動車に関わっている本当にすてきな人たちにたくさん出会って、その思いをゲームを通じて伝えたいっていうことと、あともう1つはそのクルマと人間社会って常に密接な関係を持っていますよね。過去170年間の歴史がありますけれども。
で、その人間社会との関わりを強く持っているクルマを僕らは扱ってるわけですからビデオゲームという形で、グランツーリスモを通じて、クルマという存在をグランツーリスモの向こう側にいるプレーヤーたちにね、よりすてきなものを知ってもらうとか、よりハッピーになってもらうというか、そういう好ましい影響を社会に対して与えることができたらいいなと思って作ってますね。
──25年間のグランツーリスモの中で1番達成感を感じるのは、どういったところでしょうか?
山内氏:えーとですね、25年前にグランツーリスモが生まれた時というのは僕自身も覚えてますけど、極めて実験的なタイトルでした。なので、それがポピュラーなタイトルになるっていうつもりは全くなかったんですね。
その実験的なタイトルであるっていうのは、実は今でもあまり変わってないんだけれども、それでもグランツーリスモを支持してくださるプレーヤーの皆さんがいたり、メディアの皆さんがいたり、そして何よりこのポリフェニーデジタルのチームというのは、最初のグランツーリスモからチームが全く変わっていないんですよね。15人だったチームが今や300人近くになりましたけれども、ずっと同じファミリーで作り続けている、その25年間同じファミリーで作り続けられた、もちろんユーザーや皆さんのサポートがあってからなんですけれども、その幸運に1番感謝しています。
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