東京五輪の開幕が近づいていた先月18日の選手村で、タハニ・カハタニ(21)は、恩師の顔を見るなり飛びついた。「先生!」 【写真】柔道女子78キロ超級1回戦の開始を待つサウジアラビアのタハニ・カハタニ選手(右)と高田知穂さん=2021年7月30日、日本武道館、加藤諒撮影 受け止めたのは高田知穂さん(29)。「おお、久しぶり!」。新型コロナに引き裂かれた師弟の、1年4カ月ぶりの再会だった。 高田さんは元柔道選手。大学時代には関東の大会で優勝し、卒業後も自衛隊で3年ほど競技を続けた。調理補助の仕事などをしながら次の生き方を考えていたとき、サウジアラビアが、女子柔道のコーチを探していると知った。 サウジは、女性が公の場でスポーツをすることを最近まで禁じていた国だ。「女性の社会進出のために柔道を指導する。自分の力を人の役に立てられると思った」。2年前の6月、海を渡った。 大学を拠点とするクラブで指導にあたった。集まった教え子は初心者がほとんど。学校で体育の授業を受けられなかった人ばかりで、でんぐり返しも初めてだった。そのなかで、運動能力がひときわ高かったのがカハタニだった。 道場には女性だけ。人によっては髪を覆うヒジャブやニカブを外し、「柔道をしている時だけはストレスを発散できる」と喜ぶ姿が新鮮だった。一方で、「危ない」「はしたない」と家族に反対され、やめていった人も少なくなかった。 現地で指導を始めて1年が経たないうちに、新型コロナウイルスの脅威が中東にも押し寄せた。高田さんも日本へ帰国せざるを得なかった。選手たちには、トレーニングの様子を動画にまとめて送った。 今年7月半ば、東京五輪に出場するカハタニのコーチとしてサウジアラビア選手団に加わって欲しいと連絡があった。二つ返事で引き受けた。 30日の女子78キロ超級で、教え子はオリンピアンの仲間入りを果たした。イスラエルの選手との初戦は、背負い落としによる一本負け。初の五輪は1分44秒で終わった。堂々とした姿に高田さんは感心した。「私はすごく緊張したのに」 今回、カハタニは特別枠での参加だった。国際オリンピック委員会が、女子選手の参加を促すために設けたものだ。 だからこそ、3年後のパリ五輪では自力で出場権を得たいと思っている。「私の活躍を通じて、サウジアラビア女性の本当の姿を世界に見せたい」 高田さんも再びサウジに渡り、コーチを続ける予定だ。「指導者として成長したい」。二人三脚の挑戦は、始まったばかりだ。(伊木緑)
朝日新聞社
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