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Tuesday, July 6, 2021

記憶から消える それが本当の死 - 朝日新聞デジタル

各地で追悼行事

 広島県内で全国最多の150人(災害関連死41人を含む)が亡くなった西日本豪雨から3年がたった6日、各地で追悼行事が開かれた。遺族や被災者らは犠牲者に祈りを捧げた。土石流が発生した静岡県熱海市の行方不明者の安否を気づかい、災害の教訓を風化させないことを誓った。

警察官の息子 忘れない 広島

 「息子のことを思い出さない日はありません」。19人(災害関連死含む)が死亡、1248棟の住宅に被害が出た広島市安芸区の追悼式で、遺族代表の会社員晋川(しんかわ)芳宏さん(57)は声を絞り出すように語った。

 あの日、息子の尚人さん(当時28)を亡くした。県警呉署員として土砂崩れで立ち往生していた車の避難誘導をしていた午後8時ごろ、土砂に襲われたとみられる。11日後、近くの川から遺体で発見された。

 責任感が強い息子だった。刑事ドラマが好きで、大学時代に東日本大震災の募金活動をした経験から「人の役に立ちたい」と警察官を志した。亡くなる前年に家を建て、長男は2歳になったばかりだった。

 被災後、芳宏さんは次々に整備されていく砂防ダムを目にすると、悲しく、やりきれない気持ちになったという。「3年前にできあがっていれば……。心の傷痕は一生消えません」

 それでも心に決めているのは、尚人さんを忘れず、思い続けて生きることだ。「話題がある間は、その人の命は続いている。愛してくれた人の記憶から消えた時、それが本当の死だ」。追悼の言葉をこう締めた。

 広島市安芸区の市立矢野幼稚園では園児24人や先生が、隣接する矢野小学校の正門前の災害碑前で黙禱(もくとう)し、犠牲者を悼んだ。

 園には当時、1メートル超の高さの土砂が流れ込み、園舎の1階が完全に埋もれた。夜だったため園児に被害はなかったが、約4カ月間、園舎が使えなかった。被災後、園では大雨警報が出たらすぐに2階に逃げる「垂直避難」の訓練を開始。土石流の恐怖を伝える防災教育も進めている。

 岡田幸子園長は園児に被災当時の園舎の写真を見せながら、「みんなが今も生きていられるのは、おうちの人が助けてくれたから。感謝の気持ちを持ち、失われた命にお祈りしましょう」と語りかけた。静岡県熱海市土石流について「災害はいつ起こるかわからない。子どもたちには3年前を思い出し、命を守る大切さを学んでほしい」と話した。(福冨旅史)

父へ 前を向くよ 呉・安浦

 大規模な土石流に見舞われ3人が死亡した呉市安浦町の市原集落では、住民主催の追悼集会が開かれた。遺族ら約30人が出席し、土石流が襲った現場に向かって黙禱(もくとう)し、献花した。

 父の良治さん(当時67)を失った高取久美子さん(44)は献花後、「3年たち、ようやくあの災害を見つめ直すことができるようになった。現場に手を合わせ、父に『前を向いて生きていくよ』と伝えた。父も見守ってくれているはず」と話した。静岡県熱海市土石流にも触れ、「つらくてニュースをまともに見ることができない。行方不明の方が1秒でも早く見つかってほしい」と語った。

 高取さんは、3年前の7月6日夜、父と2人で自宅にいた。雨が激しくなると、父から「家の中にいろ」と言われた。父は避難のために車を出そうと外へ。直後に大量の土砂に見舞われ、流された。4日後に2キロ先のキャンプ場で遺体で見つかった。

 追悼集会を企画した集落の自治会長、中村正美さん(71)は犠牲者の名前を呼び上げ、「決して災害を忘れない」とあいさつした。(能登智彦)

復興 誰も取り残さない 東広島

 災害関連死を含め20人が犠牲となり、現在も1人が行方不明となっている東広島市では、黒瀬生涯学習センター「せせらぎホール」で追悼式があった。遺族13人を含む75人が参列した。

 市内では災害復旧工事の今年度末での完了を見込んでいる。式典で高垣広徳市長は「コロナ禍で人と人とのつながりが希薄になりつつある今こそ、誰ひとり取り残さない復興・復旧に向け全身全霊で取り組んでいく」と述べた。

 同市豊栄町の日谷幸恵さん(47)は消防団員だった夫の智輝(ともき)さんを亡くした。被災後に多忙を極めて翌月に亡くなり、災害関連死と認められた。日谷さんは献花後、「悲しむ暇もなくただ生きてきた。いつの間にか3年も経ったんだなという感じ」と振り返った。全国で相次ぐ土砂災害に「自然には勝てない。減災に努めていかないといけないですね」と話した。(宮城奈々)

今も行方不明の5人捜索 県警など175人4河川で

 西日本豪雨災害で、今も見つかっていない行方不明者5人の捜索が6日、瀬野川(海田町)、天地川(坂町)など計4河川であった。県警や広島市消防局、広島海上保安部などから計約175人が参加した。

 当時11歳と6歳の姉妹が流されたとみられる瀬野川では、県警機動隊や安芸消防署の約30人が川の中や河川敷を捜索。棒で川底をかき、衣服などの手がかりを捜した。河口ではボートの上から水中ドローンを操作し、水中を捜索した。上空からの捜索のためヘリ1機も出動した。

 県警機動隊の大地勝司中隊長(47)は「被害の記憶は薄れているが、行方不明者の家族の思いはよりいっそう強くなっているだろう。少しでも手がかりが見つけられるよう全力を尽くしたい」と話した。(松尾葉奈)

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