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米国で4年に1度の大統領選挙は、ドナルド・トランプ氏の勝利となりました。
私が住んでいるカリフォルニア州では、トランプ大統領誕生の機運をみじんも感じることができませんでした。事実、カリフォルニア州では開票と同時にヒラリー・クリントン候補に当確が出ており、ニューヨーク州とともに、トランプ氏の選挙戦略上、初めから捨てられた地域だったことを悟りました。そしてその日の夜、近所の友人からは、信じがたい結果と相手にされなかったという事実から、失望を隠しきれないメッセージが届き続けました。
選挙結果はとにかくとして、なぜトランプ氏が勝利したのか、という責任をなすりつけられそうになっているのがFacebookです。
Facebookに集まる批判
Facebookでの主にクリントン氏に不利な嘘のニュースの拡散が、選挙結果を左右したのではないか、との批判が集まっています。例えばNew York Timesは、「Fake News」(偽ニュース)を「Digital Virus」(デジタルウィルス)という言葉で表現していました。
選挙結果が出た直後の11月11日にテクノロジー系のイベントに登壇したFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOは、「Facebookが選挙結果を左右するとは考えにくい」と批判に応えています。同じ内容を、自身のFacebookポストにも投稿しています。これによると、Facebook上の情報は99%以上真実であり、党派の偏りや政治絡みだけではないと指摘しています。全文訳は、ITmediaで参照できます。
しかし、その指摘を覆すデータもあります。米国BuzzFeedによると、8月から選挙当日までの期間で見ると、Facebook上では、主要な選挙に関するニュースよりも、偽のニュースの方がエンゲージメント、つまり人々とその投稿との結びつきが大きかったと集計しています。しかも20本の偽のニュースのうちの17本が、クリントン氏を批判するものだったというのです。
マーク・ザッカーバーグ氏は、偽の情報の選別に研究開発を急ぐことを、前述の投稿に明記しています。ただ、嘘は真実より面白い(面白く作れる)わけで、完全にクリーンな、無菌状態のFacebookを作ることができるとは考えにくいです。
デジタルコンテンツは、ますます見分けにくくなる
さて、ここで、2つの問題提起をします。1つは、「本当に偽の情報だと見破れるのかどうか」です。
11月2日から開催されたAdobe Systemsのクリエイティブに関する年次イベント、Adobe MAXを取材した際、まだ世に出ていない機能を披露する人気のセッション「Sneak」は驚きの連続でした。
中でも最も驚いたのは、「音のPhotoshop」と称された音声編集機能です。この機能は、まず音声をディクテーションで文字化します。その上で、文字の単語を入れ替えれば、音声もその通りに変化してくれます。語順を並べ替える程度なら音声の波形編集ソフトでもお手の物ですが、さらに、喋っていない言葉も、音声合成で生成できてしまうのです。
よく「ボイスレコーダーで録音して証拠に」なんていいますが、この技術を見てしまえば、音声の証拠能力なんてなくなったも同然ですね。Adobeとしては、合成かどうか、ウォーターマークを入れることも考えているそうですが。
Photoshopでは、無料で利用できるモバイルアプリですら、無表情の顔を笑顔に変えることができます。そして、既にAdobeが持っている技術の組み合わせで、言うはずのない一言を、誰にでも言わせることができるのです。
もちろん、Photoshopも紹介した音声技術も、クリエイションの可能性を拡げるツールでしかありません。作りたい写真や映像を作れるようにすることは、思考の制限を取り払った表現につながります。ただ、世に流れる画像だけでなく、音声や映像も、もはや事実だとは限らない状況なのです。
現在、Facebookで、テキストの嘘ニュースかどうかを見分けるに至っていないのに、写真や音声、ビデオまで巧妙に作り上げられるようになったとしたら、いかにして情報を「真実だ」と信じられるでしょうか。
こうしたコンテンツを前にして、人の判断も、機械学習での判別も、追いつかない状況がより加速していくのが現在、といえるでしょう。
「シェアさせて頂きます」位のていねいさが良い
日本らしいな、というFacebook上での作法に「シェアさせて頂きます」というフレーズがあります。2つ目の問題提起は、シェアの作法についてです。
若い人から言わせれば、「わざわざ断らなくてもいいのに」と重たさを感じたり、「シェアすること」をアピールしているとみたり、「シェアって言いたいだけじゃ?」なんて勘ぐりすらあります。
ただ、この「シェアさせて頂きます」というていねいさは、Facebookが置かれている状況から考えると、あながち的外れでもないでしょう。ネガティブにとらえれば、それぐらい慎重にシェアしなければ、嘘ニュースをばらまいているメディアと同じ扱いを受けかねないからです。
Facebookの使い方は人それぞれですが、友人とのコミュニケーションでも、仕事のつながりがある人でも、どんな情報をシェアするのか、というのはパーソナリティやアイデンティティに関わってきます。そうした1つずつのアクションや、他社へのリアクションが蓄積して、Facebook上の「自分」が構成されていくからです。それがいやだから、蓄積と真逆のSnapchatを支持する若者世代が存在するわけで。
そう考えると、非常に気軽な、ボタン1つで行える「シェア」によって、失うものが小さくないことが浮き彫りにされてきます。「シェアしない」というリスクヘッジは潔すぎるし、それで途切れるコミュニケーションもあるでしょう。例えば、シェアする際、情報に対してどんな反応をしたのかを書き添えるだけでも、ソースを採り上げる意味や自分の考えをソースの確からしさに引きずられずに済むこともあるでしょう。
気軽なコミュニケーションだからこそ、「ていねいさ」を心がけていくべきではないでしょうか。
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