2021年秋冬コレクションをパリで発表
社会的なメッセージ性の強い作品や、サステイナブル(持続可能)な服作りで注目されている新鋭マリーン・セル。2021年秋冬は「CORE(コア)(芯、中核の意味)」をテーマに、映像などで古着の再生や人間愛の意義などを訴えかけた。パリ在住のセルにリモートでインタビューした。
――服とドキュメンタリー映像、写真集。複数の手段で新作を発表した理由は?
ファッションを表す媒体は、今や服に限定されないと思ったから。特に本は、手にとってページをめくられるフィジカルな媒体。何年も手元に置いて、人々と時間を共有できる。
――ドキュメンタリー映像は、新作を着た家族や友人同士が家でくつろぐ様子などを描いていますね。
映っていたのは私やスタッフの友人。全て現実で、脚本もなく即興で彼らの生活にカメラを向けた。親密であることの貴さ。コロナ禍で皆がそれぞれ家で孤立している日々だからこそ、今の私たちに残された日常の美を捉えたかった。
――テーマ「CORE」に込めたメッセージとは。
私にとって内側の部分という意味で、消去できないメモリーが保存してある場所。あらゆる線がつながる合流点でもある。現在の危機を乗り越え、生き残るために欠かせないもの。人間愛やその共有。服の形やポケットなどの機能、マスクや手袋などからもその意図がわかると思う。デビューからの約3年間、取り組んできた物づくりの中核部分を見せたくもあった。
――映像や本では、山と積まれた古着のデニムやカーペットから糸を再生したり、つぎはぎしたりしてチャーミングな服に仕立て直す様子も描かれていましたね。
古着などを再生して服に仕上げるまでの製作現場を包み隠さずに見せました。どこから布を仕入れ、どのように服を作っているか。ステッチの手作業の方法などあらゆる細部も明かした。個人的で親密な部分も見せるという意味から、今回の発表を「ラブレター」と位置づけています。
物語性を生かす
――一般的な再生した服などとどこが違うのですか。
素材となる古着や古い生地の物語性や質を生かして、デザインや型紙作り、縫製の全てで生まれ変わらせる努力をしてきた。それは過去を分析して解釈し直す作業で、幾世代もの知識や経験の収集でもある。こうして生まれる服には、強さがあると思う。時間がかかるし服も高価になるけれど、価値観を共有する人に買ってもらえる方法を常に考えています。
――リサイクルのあり方について、ここ数年で変化を感じていますか?
この数年は、再生繊維や生分解性の素材などを提供するメーカーが増えた。サステイナビリティーは業界のトレンドで、環境にはいいが、大量生産をするなら何も変わらない。コロナ禍で人々は服の意味やなぜその服を着るのかについて、前より深く考えるようになったことに注目したい。
常識、考え直す時
――19年秋冬の作品では、「地球が核戦争で滅亡寸前の時」とのイメージで、マスクなども話題になった。現在の状況はより危機的になったのでは?
あの時は、人々に世界の終わりへの予兆を表現することで、警鐘を鳴らしたかった。コロナから1年経った今、私たちは大きな危機感を抱くようになったと思う。しかしその一方で、逆にたくさんの新しい可能性の扉が開いているとも思います。これまでの常識や習慣を考え直す時でもあるからです。
ファッションはもう色や形などから、新しさを見いだそうとしないこと。早々と飽きてしまわないこと。過去を反省し変えていくことが大事。自由に想像力を働かせて、ファッションの新しい生み出し方や、より広い視野で世界を見る方法を探ることが求められているのです。
(編集委員・高橋牧子)
<写真はいずれもブランド提供>
からの記事と詳細 ( 私の心の内、親愛なるあなたへ マリーン・セルに聞く - 朝日新聞社 )
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