2021/04/25 10:32 ウェザーニュース
今シーズンの桜の開花状況とその特徴、さらに近年の温暖化との関連について、九州大学名誉教授・元福岡市科学館館長の伊藤久徳先生に伺いました。
「今年は1月の前半までは低温傾向でしたが、後半以降は高温になり、とくに3月の平均気温は統計開始以降、最高となりました。そのため、1月の前半までに休眠打破(一定期間の3~10℃前後の低温による桜の“目覚め”)がほぼ順調で、その後の成長が大きく進み、各地で開花が記録的に早まったことが特徴といえます。
歴史的な暖冬となった2020年は休眠打破がうまく進まず、鹿児島などでは開花が遅れました。今年はその点が大きく異なります。3月の異常高温で開花時期が早まったのは間違いないですが、開花時期を除いては、これまで日本で起きていた現象と同様で、『正常な咲き方』だったと言えるでしょう」(伊藤先生)
温暖化による桜の異常現象はもっと別のところで見られると、伊藤先生は分析します。
福岡では満開が早まっていますが、開花もさらに早まっているので期間は長くなっています。宮崎や熊本も同じです。北の寒い地域はそうではありませんが、南の暖かい地域の特徴となっています」(伊藤先生)
満開というのは桜の8割がいっせいに咲いていることをいいます。休眠打破がうまく進まないと、1本の木のなかでも花芽の個体差による生長の違いが大きくなり、開花から満開までの期間が延びる原因となると考えられるのです。
ウェザーニュースがユーザーから報告された「全国1万本の桜のデータ」(“マイ桜”)を基に、過去9年の開花から満開までの日数を計算したところ、北の地域と南の地域で顕著な違いが見られました。
「近年、暖かい地域では平年でさえ休眠打破がうまく進むかどうか“ぎりぎり”の気温になっています。地球温暖化が進んだことで、この傾向がさらに顕著に現れてきているのです」(伊藤先生)
「シナリオでは日本周辺の気温は平均で2~3℃程度高く設定しました。その結果、東北地方で桜の開花が今より2〜3週間早まる一方、九州など温暖な地域では逆に1〜2週間遅くなりました。つまり、3月末になると九州北部から東北南部でいっせいに桜が開花することになるのです。
さらにシミュレーションでは桜の開花日が変動するだけでなく、開花しない、開花しても“だらだら”と咲いて満開にならない地域もありました。種子島や鹿児島の西部ではまったく開花せず、九州南部、四国南西部、長崎や静岡の一部は開花しても満開にならないという結果でした。
桜の開花が『過去この頃だったから、今年の予想ではこの日になる』などという経験則は、温暖化が進めばまったく通用しなくなります。また、他でも『これまでにない暑さ』や『これまでにない豪雨』など経験が通用しないことが頻繁に起こります。
温室効果ガスの増加に伴う気温の上昇と気候変化のスピードは “はやすぎる”といっていい状況です。経験をもとに考えることはむしろ間違いを引き起こす可能性さえ問われているのです。それは遠い将来ではなく、もうすでに起こっていることなのです」(伊藤先生)
伊藤先生が行ったのは70〜80年後のシミュレーションですが、たとえば今年3月の東京の平均気温は12.8℃と、すでに平年値の8.7℃を4.1℃も上回っています。そんな近年の状況をみているだけでも、温暖化は人間だけでなく桜にとっても厳しい環境を与えることになりそうです。
からの記事と詳細 ( 今年は見られなかった、温暖化による桜の“本当の異常現象”とは - ウェザーニュース )
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