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Wednesday, March 17, 2021

「本当」のSDGsと「見せかけ」のSDGs。消費者をあざむくSDGsウォッシュを見破ろう! - 文春オンライン

持続可能な世界を実現するため、いま取り組むべき17の目標を定めたSDGs。企業がこぞってSDGsを標榜するなか、見せかけの“SDGsウォッシュ”も横行している。ビジネスを通して社会的課題の解決に取り組むユニリーバ・ジャパン北島敬之氏に、SDGsのあるべき姿を訊いた。

2010年、SDGsに先立って、USLPを導入

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 代表取締役 北島敬之氏
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社
代表取締役 北島敬之氏

――二〇一五年九月の国連サミットで採択されたSDGsですが、それに先立って、二〇一〇年、ユニリーバでは「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(USLP)」が導入されたと聞いています。USLP導入の経緯というのは?

北島 ビジネスによって社会問題を解決しようという取り組みは、遡れば、ユニリーバの創業者であるウィリアム・ヘスケス・リーバが1880年代に「サンライト」という石鹸を発売したことに行き着きます。

 当時、イギリスの衛生環境は非常に悪く、子どもが病気にかかって死んでしまうということが社会問題になっていました。リーバはその状況を変えたいと、石鹸で手を洗うことを提唱し、“清潔さをあたりまえに”をキャッチフレーズに「サンライト」を発売したのです。

 現代は衛生環境だけでなくて、たとえば飢餓、貧困、気候変動、ジェンダーの問題など、さまざまな社会問題があり、それはより複雑になってきています。そういう状況の中で、消費財メーカーであるユニリーバとして、ビジネスを通してどう社会問題を解決できるかということから始まったのが、このUSLPです。

――USLPがめざすところというのは、どういうものでしょう。

北島 三つの柱があります。一つは、環境への負荷を半減すること。二つめは社会に良い影響を与えること。三つ目はビジネスも成長していくということ。ビジネスが売上や利益だけを目指すのではなく、何らかの社会の問題解決につながる。こういうサイクルをつくっている企業がこれからも存続していくと考えています。

――経済・社会・環境を結びつけて考えるSDGsとUSLPは大変親和性が高いということですね。

北島 SDGsとUSLPがどの程度重なっているか、マッピングをしてみたところ、SDGsの十七の目標のうち十五に直接的に貢献しており、残り二つにも間接的に貢献をしていることがわかりました。USLPの約五十の目標をめざしていけば、SDGsにも自然に貢献ができるというデザインになっています。

ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランの3つの約束と活動分野。SDGsの「17のゴール」と、どのように対応しているかがわかる
ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランの3つの約束と活動分野。SDGsの「17のゴール」と、どのように対応しているかがわかる

――USLPに基づいて、ユニリーバではいまどのような取り組みをされているのでしょうか。

北島 エネルギーに関しては、ユニリーバ・ジャパンでは「グリーン電力証書」を利用し、自社工場だけでなく、すべての事業所、主力協力工場でも、一〇〇%再生可能エネルギーに切り替えました。

 さらに、二〇二五年を目標に、プラスチックのパッケージを一〇〇%、再利用可能、もしくはリサイクル可能、もしくは堆肥化可能にしようとしています。できるだけ捨てるものを減らして、再利用するような、いわゆるサーキュラーエコノミー、循環型経済をつくっていく取り組みです。

 また、ユニリーバでは以前から、人種、年齢、ジェンダーのような業務に関わりのない属性で差別されることなく、公平に機会を与えられ、評価される環境を整えてきました。また、“男らしさ、女らしさ”といったステレオタイプも極力排除しています。

海外ではシャンプーやコンディショナーの量り売りも行われている(写真はチリの移動量り売り販売車)
海外ではシャンプーやコンディショナーの量り売りも行われている(写真はチリの移動量り売り販売車)

企業に対する信頼を貶める“SDGsウォッシュ”

――SDGsに関して、一般の関心も高まってきていますが、いま問題になっているのが、見せかけのSDGs、いわゆる“SDGsウォッシュ”です。それについては、どのようにお考えでしょう。

北島 SDGsは確実に社会のあり方を変えていく目標なので、SDGsを標榜しているけれど、まったく社会の変化を促していないとなれば、結果的にそれは“SDGsウォッシュ”だと言われてしまっても仕方ないと思います。言っていることとやっていることが違うというのが、いちばん信頼に値しない行為です。そのことが見えてしまうと、それは企業に対する価値や信頼を貶めることにつながります。

 見せかけだと思われないために、大切なことが三つあります。

 一つ目はトーン・フロム・ザ・トップ、つまりトップからの強烈なメッセージですね。SDGsの取り組みがイコール企業の存在意義だというふうに、きちんと定義付けをして、それを明確に社内外にコミュニケートすることが重要です。

 二つ目は社員が自らの企業の存在意義、パーパスを理解して、それに共感して、さらにそれに基づいて行動や意思決定をするようにトレーニングすること。

 三つ目は、一社単独でやらないということです。企業にはさまざまなステークホルダーがいます。たとえばメーカーであれば、バリューチェーン、つまり製品が消費者の手に届くまでの取引の流れの中に、自社の社員の他にも、原料や包材のサプライヤー、協力会社、物流業、卸売業、小売業の方々など、さまざまな企業や人々が関わっています。そのバリューチェーン全体で意識を高めていくことが必要です。

「詰め替え用製品を買う」「空き容器をリサイクルする」ことでポイントがたまる「UMILEプログラム」もスタート
「詰め替え用製品を買う」「空き容器をリサイクルする」ことでポイントがたまる「UMILEプログラム」もスタート

――消費者が、見せかけのSDGsかどうかを見抜くためには、どうすればいいのでしょう。

北島 前CEOのポール・ポールマンは「透明性はパワーだ」という言い方をしています。まず最初にゴールを決めます。そのゴールはできれば数値目標ですね。数値化が難しい場合にも、ビフォー、アフターの違いがはっきり分かるような目標を立てます。ゴールを設定したら、それを公表してコミットし、さらに進捗は定期的にレポートします。レポートの中では、まだできていないところもちゃんと言うことが大切です。ゴールに向かって継続的にフォローアップをして、最終的にやり切るまで進捗を報告しつづけること。それがSDGsに取り組む際、最低限必要なことです。

――消費者もイメージに流されるのではなく、それをきちんとチェックするということですね。

北島 難しいことにチャレンジしてるわけですから、小さな失敗はあって当然だと思っています。その失敗をラーニング、学びに変えながら進んでいくことが大事なんです。失敗を恐れて何もしないというのは、たぶんそれもある種の“SDGsウォッシュ”なのではないでしょうか。

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