東京電力福島第1原発事故後、台湾では福島県などの5県産食品に対して禁輸措置が続いている。禁輸解除のためには、台湾での風評払拭(ふっしょく)が必要と考えた日本生まれの台湾人、簡憲幸(かん・のりゆき)さん(66)=東京都中野区=らが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使って福島の現状を発信し始めた。現地の反応はおおむね好意的で、簡さんは手応えを感じている。
住民投票、禁輸継続の結果に
簡さんは、日台友好活動に取り組む台湾人や日本人の団体「東京台湾の会」(東京都世田谷区)の事務局長。同会と復興支援に取り組むNPO法人「元気になろう福島」(福島県川内村)が協力して取り組んでいる。
蔡英文政権は輸入解禁を前向きに検討していたものの、2018年11月に実施された住民投票の結果、禁輸継続賛成が約779万票、反対が約223万票で、禁輸が継続されることになった。
「福島の姿知られていない」
台湾は多額の義援金を寄付するなど、東日本大震災の発生直後から、被災地に積極的な支援を続けてきた。それでも、簡さんは現地の状況を「福島産食品を口に入れるどころか、触ることさえ抵抗を感じている人たちもいる。被災地を熱心に支援してきたことと、福島に対して原発事故で汚れた土地というイメージを持っていることはまったく別問題だ」と指摘する。
そのうえで「この拒否感があるのは、本当の福島の姿が知られていないから。住民の拒否感が和らげば、政府は輸入を解禁できる」と考え、市民レベルで情報発信しようと計画した。
福島の現状を真剣発信
簡さんは台湾籍ながら日本で生まれ育った。原発事故後、台湾人に対して「福島産食材を食べている」と話すと、心配されたり、疑いの目を向けられたりした。このまま自分の言葉で発信するだけでは現地で信用されないと考え、留学や就職で既に日本に住んでいる台湾人の若者に呼び掛けて昨年11月16~21日、県内を巡るツアーを実施した。5人が参加し、「元気になろう福島」の紹介で農家や酒蔵、福島第1原発での廃炉作業などを見学して動画を生配信したり、記事を投稿したりした。
福島第1原発では、構内で発生する汚染処理水の貯蔵タンクが増え続けていることなど、廃炉作業について国の担当者から説明を受けた。果樹農家や花卉(かき)農家を取材し、ITを駆使して品質を高めている努力を聞いたほか、江戸時代の宿場町の趣を残す同県下郷町の大内宿を観光する様子もライブ配信した。若者たちは、今福島がどうなっているかや、生産者がどれだけ苦労しているかなど、現地で見えたことを、どう伝えるか真剣に考えながら発信を続けた。
留学生「復興伝えたい」
メンバーの学生、李昀霏(り・いんひ)さん(26)は、福島の復興を知るには、資料やデータだけでなく、実際に現地を訪れて確かめることがもっとも確実な方法だと考えてツアーに参加した。「福島では、震災で家族を亡くした人も復興に向けて立ち上がり、原発事故の被害が広がらないよう、一生懸命頑張ってくれていることを伝えたい。台湾人は優しいので、それを知れば必ず応援したいと思うはずです」とツアーの感想を話す。学生の許宸瑋(きょ・しんい)さん(24)は「福島の農家がITなども取り入れて高品質の農産物を作っている姿や、福島県は広いのに一律に禁輸されていることを知って、申し訳なく感じた」と語る。
フェイスブックなどで発信した情報に「大丈夫なんですか」などと放射能の影響を心配するコメントがつくこともあったが、メンバーらは、携帯している線量計の数値などを使って安全性を説明。「きれいな景色ですね」「そこではどんな物が見られるんですか」などと、興味を示す反応も寄せられた。
12月11~18日には台北市で、ツアーの様子を伝えるパネル展示や、高品質だと評価が高い福島県産日本酒の試飲会などを開催。現地のジャーナリストや著名ブロガーらがその模様を伝え、注目度が日増しに高まっている。活動に賛同する台湾の市民団体「福島前進団」には、すでに約1500人の会員が集まっている。
「できることを」
簡さんは「メンバーが原発で防護服を着た写真も公開したが、批判的な反応はなかった。始める前は不安もあったが、今は知ってもらえば伝わると確認できている。あとは接触の機会を増やせばよいだけ」と手応えを感じている。さらに発信を増やすため、21年度は福島第1原発に近い自治体に取材対象を絞って活動を続ける方針だ。
日本語を母語とし、日本文化の中で育った簡さんは「自分の中の台湾人の部分は、ペットボトルいっぱいの水に1滴だけ垂らした赤いインクのようなもの」と表現する。12年5月以降、福島県内や東京都内で復興支援イベントに取り組んできたが、今回は自分のルーツである台湾への働き掛けだけに思い入れは強い。「この状況で(台湾に対して)何もできなければ、自分は真水になってしまう気がする。それは嫌なんですよ」【高橋隆輔】
からの記事と詳細 ( 「本当の福島知って」日本生まれ台湾人、食品禁輸解除に向け発信 - 毎日新聞 - 毎日新聞 )
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