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Tuesday, August 11, 2020

コラム:FRBがYCCを採用しない本当の理由=門間一夫氏 - ロイター (Reuters Japan)

[東京 12日 ロイター] - 米国の連邦準備理事会(FRB)の金融政策は、次の9月会合が注目される。「枠組みレビュー」の結果が公表される可能性が高いからである。

8月12日、米国の連邦準備理事会(FRB)の金融政策は、次の9月会合が注目される。ワシントンのFRB本部で2017年5月撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

枠組みレビューとは、利下げ余地が少ない状態が近年常態化する中で、金融政策の有効性をいかに確保するかという問題意識から、FRBが1年以上前に始めた包括的な検討作業である。前回7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の後、記者会見でパウエルFRB議長は、枠組みレビューの結果を近いうちに公表できると述べた。言いぶりからみて、次回9月15、16日のFOMCで結論が出る可能性が高そうだ。

その中で最も注目されるのは、2%物価目標の強化である。明らかになっているこれまでの議論を踏まえると、いわゆる「取り戻し戦略(make-up strategy)」の要素を取り入れる可能性が高い。これは、インフレ率が2%を下回る期間が生じたら、その後しばらくは2%を上回るインフレ率を目指し、平均すれば2%になるようにする、というものである。

ちなみに、FRBによる直近の物価見通しは6月時点のものであり、2020年0.8%、21年1.6%、22年1.7%となっている。次回9月のFOMCで見通し対象期間が23年まで延長される。その際、「取り戻し戦略」の採用も同時に明らかにされれば、たとえ23年の物価が2%に達する場合でも、事実上のゼロ金利政策が解除されるのはまだその先、というイメージを市場は迷いなく持つことができる。

それに加えて、例えば「インフレ率が少なくとも2%を超えるまでは政策金利を引き上げない」といったフォワード・ガイダンスも明示されれば、ダメ押しになる。

ただ、そうしたフォワード・ガイダンスが9月に示されない場合でも、「取り戻し戦略」の考え方さえ明らかにされれば、ゼロ金利政策が相当長期化するという認識は、市場に十分浸透すると考えられる。

<それでもやらないイールドカーブ・コントロール>

ゼロ金利の長期継続を鮮明にすることでFRBが狙うのは、長期金利の低位安定である。ならば日銀のように、イールドカーブ・コントロール(YCC)で長期金利を直接抑えてしまう方が、話が早いのではないかという疑問が湧く。実際、日銀は2016年9月にYCCを導入して以来、10年国債の利回りをゼロ%近辺のごく狭い範囲で見事に安定させている。こんな成功例があるのに、FRBはなぜそれを採用しようとしないのか。

それは、YCCには重大な欠陥もある、とFRBが考えているからである。主なものとして、1)コントロールを解除する過程、いわゆる「出口」の難しさ(長期金利をスムーズに正常化できるのか)、2)中央銀行の独立性が低下する可能性(国債の利払い負担を抑えたい政府の圧力)、3)そもそも長期金利の目標水準を適切に決められない可能性、4)市場機能の低下──などが挙げられている。

こうした様々なデメリットに比べて、メリットが十分にあると言えるかどうかは、比較的ハードルが低い2─3年金利を対象とする場合でも微妙であり、ましてや10年金利のコントロールなど論外だ、というのがFRBの基本認識なのである。

上記の問題点のうち、特に1)と2)は、重大かつ関連する論点である。中央銀行が長期金利を低位にコントロールしている間は、政府がそれに不満を抱く可能性は低い。しかし、ひとたび長期金利を引き上げる、ないし市場実勢に戻す、という「出口」の局面に差し掛かると、それは政府の意に反する可能性がある。

長期金利は短期金利よりも早めに、したがってインフレ率が2%に達する前から引き上げ始める、というのが金融政策においては常識的な考え方だ。しかし、政府はインフレがまだ問題ない水準なら長期金利の引き上げはもう少し待っても良いではないか、と考える可能性がある。

こうした中央銀行と政府の利害衝突の可能性は、YCCの出口を巡って無用の不確実性を招き、市場が混乱する元になってしまう。

つまり、将来のことまで理詰めで考えれば、10年物の金利をコントロールすることは、始めるのは簡単でも出口に大きなリスクをはらむ向こう見ずな政策なのである。理論家集団で説明責任を重視するFRBが、それを選択肢から外すのは当然とも言える。

<なぜ日銀はやっているのか>

では、なぜ日銀はそんな無理筋な政策を導入し、今日まで続けているのであろうか。第1に、日銀のYCCは、追加緩和策としてではなく、難局打開の奇手として導入されたものである。第2に、「出口」が来ない日本では、FRBが心配している様々な論点は問題にならない。

第1の点から説明する。YCCを導入した2016年、日銀が直面していた課題は、マイナス圏に突っ込み過ぎてその副作用が懸念されていた長期金利を、いかにほどほどの水準に戻して安定させるかであった。そのためには国債買い入れを減らすしかないが、それが金融緩和の後退と受け止められて円高・株安になるのはもっと困る。

このジレンマを切り抜けるために編み出されたのが、最適なイールドカーブの形成を促して金融緩和の効果を最大にする、という絶妙の理屈であった。

つまり、日銀のYCCは、長期金利を下げるという普通の意味での追加緩和策ではなく、国債買い入れを縮小しながら緩和の強化と言わなければならない、という「難局」を打開するための「奇手」であった。その局面をうまく切り抜けることが圧倒的に重要だったのであって、ずっと先の「出口」のことまであれこれ心配している場合では、なかったのである。

それで、結果的に問題がほぼ生じていない理由は、第2の点、すなわち幸か不幸か「出口」は来そうもないという日本の現実にある。日本で2%物価目標の実現はまず不可能である。本稿でその理由を詳しく述べる紙幅はないが、筆者ほどの確信はなくても、何となくそう感じている人は多いのではないかと思う。

前述の通り、YCCの重大な欠陥は「出口」で表面化する。しかし「出口」が来ないなら、その難しさにどう対応すべきか詰めた議論は必要ないし、日銀の独立性が問われるややこしい事態も生じない。

YCCは、国債を金額の上限なくゼロ金利で買うという政策なので、コロナ対応で財政赤字が急膨張する現局面では、事実上の財政ファイナンスに等しい。財政規律を過度に緩ませてしまうリスクもある。しかし、金利上昇局面が来ないなら、政府債務の肥大とてたいした問題ではない。

日銀はこれまで、出口戦略や財政規律の問題について、深く掘り下げた情報発信をしていない。それで済んでしまうのは、ひとえに「出口」が来ないからである。皮肉な構図ではあるが、物価目標の実現見込みが無いからこそ、日銀は安心してYCCを続けていられるのである。2%物価目標が現実論として意味を持つFRBの場合、そういうわけにはいかない。

YCCを含む日銀の異次元緩和は、見た目は「微害微益」なので終わらせるメカニズムがない。出口にはたどり着かない一方、誰の目にも明らかな弊害を理由にやめるという展開もない。

しかし、超低金利の長期化に潜む本当の怖さは、見えない副作用が徐々に進行するリスクにある。金融機関がゆっくり衰弱し、年金不安で家計マインドがさらに縮み、金利がゼロならインフレもゼロという「ゼロゼロ期待」が定着する。

症状を感知しにくい「静かな縮小均衡」は、エビデンス重視では防げない。頼れるのは中央銀行の洞察力とバランス感覚である。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラム向けに執筆されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*門間一夫氏は、みずほ総合研究所のエグゼクティブエコノミスト。1981年に東京大学経済学部を卒業後、日本銀行に入行。86年に米ウォートンビジネススクール留学。調査統計局長、企画局長を経て、12年に日銀理事(13年3月まで金融政策担当、以降、国際担当)を歴任。16年に日銀を退職し現職。

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編集:田巻一彦

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