<外国語映画の作品賞受賞が投げ掛けるアクセシビリティの問題>
アカデミー賞を主催する米映画芸術科学アカデミーは先頃、来年からノミネート作品に「多様性と包括性の新たな基準」を設けると発表した。
近年「#OscarsSoWhite(オスカーは白人だらけ)」の批判を受け、アカデミーはさまざまな修正を試みてきた。だが、その結果は複雑だ。
今年2月に韓国の『パラサイト 半地下の家族』が外国語作品として初めて作品賞に輝いたことは進歩の兆しであり、アメリカの観客はポン・ジュノ監督の言う「1インチの字幕の壁」を乗り越える準備ができたとも受け止められた。
しかし、ハリウッドが他の文化圏の作品を認めようとしないことを象徴する「壁」の議論が、どういうわけか「サブ(字幕)対ダブ(吹き替え)」にすり替わっている。
ドナルド・トランプ米大統領が韓国映画の作品賞受賞に不満を漏らすと、『パラサイト』(字幕版のみ)の北米の配給会社ネオンはツイッターで、「無理もない。彼は字が読めないから」と返した。動画配信サイトHuluも、ツイッターで苦情を言ったユー ザーに同様の辛辣なコメントをしている。「字幕を読みたくないなら、今すぐ韓国語を勉強しよう!」
ただし、『パラサイト』の字幕が読めない人は、実際にかなりの割合で存在する。多くの視覚障害者にとって、1インチの壁が1マイルの高さになるときもあるのだ。
映画のアクセシビリティを高める方法の1つに、視覚障害者のためにナレーションで場面を説明する音声ガイドがある。字幕付きの作品は翻訳されたせりふの音読も付く。
しかし、『パラサイト』が昨年アメリカで公開された際は、音声ガイドがなかった。音声ガイドの有無は、通常は配給会社が決める。地域によって対応は異なり、『パラサイト』もイギリスでは英語の音声ガイドが用意された。
20年のアカデミー作品賞にノミネートされた中で、音声ガイドがないのは『パラサイト』だけだ。文化的に重要な意味を持ち、外国語の字幕が付いた作品としても、残念なことだ。視覚障害がなくて韓国語が分からない人のためのツールはあるが、視覚障害があって韓国語が分からない人には何も提供されていない。
目の見えない観客だけではない。失読症やADHD(注意欠陥多動性障害)などの障害を抱える人も、音声ガイドがあれば大いに助かるはずだ。
映画を「全ての人」に
ハリウッドの「多様性と包括性」はスクリーンや舞台裏だけでなく、観客のために壁を取り払うことでもある。疎外されたグループのために立ち上がることは、他の人を踏み台にすることではない。
全米盲人協会のダン・スプーン会長はアカデミーのデービッド・ルービン会長に宛てた書簡で、聴覚障害者のためのキャプション(文字情報)と視覚障害者のための音声ガイドを、作品賞ノミネートの要件とすることを求めた。さらに、音声ガイドをアカデミー賞の技術部門で表彰することや、古い作品に音声ガイドを追加することなども提案している。
アカデミー賞の新しい応募資格として、アクセシビリティの基準を設ける格好のタイミングだ。全ての人が体験するべき映画はたくさんある。
© 2020, The Slate Group
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