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生きることは絶対的に善である。「自分には価値がない」「生きている意味がない」と思うことは、自分で自分の尊厳を傷つけることであり、あってはならないことである。――と、講談社現代新書『人生は苦である、でも死んではいけない』著者の岸見一郎氏は語ります。
では、自分の人間としての尊厳を守り、苦しい人生を生き抜いていくためには、どうすることが必要なのでしょうか。著者による特別寄稿文です。
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人間の尊厳を守るためには
今の時代、あまりに「いのち」が軽んじられている。生きることは絶対的に善である。生きていてはいけない人、犠牲になっていい人などはいない。私が『人生は苦である、でも死んではいけない』でとりわけ伝えたかったのはこのことだ。
他方、自分には何の価値もない、自分が生きていることには意味がないと思う人がいる。そう思うことは、自分で自分の尊厳を脅かすことである。だが誰からも自分の尊厳を脅かされることがあってはならない。たとえ自分であっても、自分の尊厳を脅かしてはならない。
自分の尊厳を守るためには、多くの人が自明と見なしている価値観から自由になる必要がある。人の価値は何か特別なことをすることにあるのではない。何もできないから自分に価値がないのではない。何かができることに価値があるという世間の常識、自分自身も知らず知らずのうちに受け入れているこの価値観のほうが間違っているのだ。
それでは、どう考えれば、自分に価値があると思えるのか。どうすれば、本来的に苦しいものである人生を生き抜く勇気を持てるのだろうか。
死を前に絶望しないために
三木清は、人生を砂浜で貝を拾うことに喩えている(『語られざる哲学』)。この砂浜の彼方には大きな音を響かせている暗い海がある。これに気づいている人もいれば、気づいていない人もいる。
籠の中には拾い集めた貝が満ちてくる。ここで三木がいう「貝」とは、多くの人が何の疑いもなく「美しいもの」、つまり「価値あるもの」と思い、それを得ようと努めるもの、例えば、お金や名誉や社会的地位のことである。
ところが、「何かの機会が彼等を思い立たせずにはおかなかったとき」、籠の中を調べてみると、かつて美しいと持って拾い上げたものが醜いものであり、輝いていたと思っていたものが光沢がないものであり、貝だと思っていたものがただの石でしかないことを発見して絶望する。
ここでいう「何かの機会」とは、病気になったり、また、事故や災害に遭ったりするようなときのことである。老いもまた、ある日、突然自覚することではないかもしれないが、若い頃には何の問題もなくできていたことができなくなってきていることに気づいた時にはやはり籠の中を見ないわけにいかないだろう。
このような経験をすると、一命を取り留め、あるいはそのときには難を逃れることができたとしても、人生はいつまでも続くのではなく、明日という日がくるのも自明のことではないこと、さらには、人生の終わりに死が待ち構えていることに気づいてしまう。
「しかしもうそのときには彼等の傍に横たわり拡がっていた海が破壊的な大波をもって襲い寄せて彼等をひとたまりもなく深い闇の中に浚っていくときは来ておるのである」
三木の喩えに出てくる広い砂浜は社会、小さい籠は寿命、大きな海は運命、そして強い波は死である。
だが私はこの三木の喩えはあまりにも暗すぎると思う。死を、生涯拾い集めた貝と共に人を深い闇の中へと浚っていく大波だと考えることは、生きることを貝を拾い集めることと同じと見なすことだからだ。
むろん三木も、「一瞬の時をもってしても永遠の光輝ある貝を見出して拾い上げる」ことができる人もいるとはいっている。だが、そもそもそれ以前に、貝を拾い集めないという選択肢もあるはずだ。そして貝を拾い集めなれば、死を前にしても絶望しないでいられるだろう。
私は母の病床に三ヶ月いて、母の遺体と共に家に帰った時、それまで目の前に敷かれていると思っていた人生のレールが忽然と消え、自分が人生のレールから大きな音を立て脱線したように思った。その時はまだ一個の貝も拾ってはいなかったが、籠の中に貝を拾い集めるような人生を送るのはやめようと決心した。
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