キヤノンが10月19日から20日にかけて、パシフィコ横浜で開催した自社イベント「Canon EXPO 2023」。同社が持つ新技術や最新ソリューションを一堂に揃えたイベントなのだが、その中で気になるものがあった。とあるブースの一角に展示されていた2基の人工衛星がそれだ。
聞くと、キヤノン傘下のキヤノン電子が手掛けている超小型衛星のシリーズで、2017年に初号機「CE-SAT-I」、2020年に2号機「CE-SAT-IIB」を製作、打ち上げたという。いずれも地球観測用として現在も稼働中で、初号機は84cmの地上分解能(高度500km)を持ち、自動車の認識が可能。乗用車かトラックかを識別できるという。また、地表だけでなく月などの天体も撮影することができる。
この人工衛星だが、何とパーツは9割が自社製。姿勢制御に使用する太陽センサー、地磁気センサー、スタートラッカー、慣性基準装置の他、衛星の姿勢を変えるアクチュエータ群も自社製という。ホイールを内蔵し、その反作用で衛星の姿勢を変えるリアクションホイールも、プリンターなどで培ったモーター技術を採用。地球の磁場を使って姿勢を制御する「磁気トルカ」も自社製で、衛星の組み立ても全てキヤノン電子で手掛けている。なお残りの1割だが、太陽光パネルなどがそれに当たるという。
●キヤノンの一眼をそのまま衛星に搭載
そして、観測に必要な地表撮影用のカメラだが、何とキヤノン製のデジタル一眼カメラがそのまま載っている。初号機は一眼レフの「EOS 5D Mark III」、2号機はミラーレスの「EOS M100」で、ベースは市販品と全く同じものという(広範囲撮影用にPowerShotなども搭載している)。望遠レンズにあたる望遠鏡の反射板はガラスセラミックス製。初号機の焦点距離は3720mmに達し、画角にして0.5度相当。この超望遠と2230万画素のイメージセンサーを組み合わせて高い分解能を実現した。2号機の望遠鏡は筐体が小ぶりなため1800mm相当に抑えられている。
しかし、市販されているカメラを宇宙空間に持っていっても大丈夫なのだろうか。チップやイメージセンサーなどの半導体は放射線に弱いと聞く。説明スタッフによると、衛星筐体はアルミ製でマウント時もカバーなどを施しており、ある程度遮蔽されているものの放射線の影響を全く受けないわけではないという。しかし「放射線試験設備で大丈夫なことを確認して打ち上げた」としており、試験を通して耐用年数をクリアできると判断したとのこと。初号機は打ち上げから6年経つが「元気に稼働中」という。
また、M100はミラーレスなので可動部品が少ないものの、5D Mark IIIは一眼レフなのでミラーボックスが搭載されており、毎撮影時にミラーが稼働する。可動箇所があるということはそれだけ故障するリスクを抱えることになるが、これも「試験で問題ないと確認している。熱真空試験も突破した」とのこと。
ただ、宇宙空間は温度差が激しいため、衛星内部に断熱加工を施し、カメラの動作に問題ない範囲に収まるよう熱設計したとしている。こうした対策は必要なものの、撮像装置を専用品ではない市販品を流用できるということは、それだけ衛星の製作コストが下がることを意味する。
●新型衛星も開発中
新しい衛星も計画中という。別の説明スタッフによれば、初号機の後継に当たるモデルで、カメラは「EOS R5」を搭載予定。望遠鏡も初号機と同様のものになるという。画素数は5D Mark IIIの2230万画素から4500万画素に上がるため、分解能もより高まる。打ち上げ日などの日程については未定とのことだが、お店で買えるカメラが宇宙で活躍しているというのは何ともロマンのある話だった。
からの記事と詳細 ( さすがキヤノン、一眼カメラを“そのまま”載せた人工衛星を2基も打ち上げていた(2023年10月21日)|BIGLOBEニュース - BIGLOBEニュース )
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