生命に必須の元素の中で最も希少なリンが、地球以外の天体の海から初めて見つかった。土星の衛星エンケラドスの表面は氷に覆われているが、この氷の割れ目から噴出した氷の粒を土星探査機カッシーニで分析したところ、ついにリンを検出したのだ。論文は2023年6月14日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された。
リンは地球の土壌を肥沃にする重要な元素だが、研究チームは、エンケラドスの内部海(氷でできた地殻の下にある液体の海)には、地球の海の100倍以上の濃度でリンが存在しているかもしれないと考えている。今回の発見は、木星の4番目に大きい衛星エウロパや土星の最大の衛星タイタンなど、ほかの氷の天体の海にもリンが含まれている可能性を示している。
リンを含むリン酸塩という物質は、DNAやRNA、細胞膜など、地球上の生命を形づくるものにとって欠かすことのできない材料だ。ドイツ、ベルリン自由大学の惑星科学者フランク・ポストベルク氏は、生命に必須の6つの元素(炭素、水素、窒素、酸素、リン、硫黄)のうち、宇宙における存在量が最も少ないのがリンだと説明する。(参考記事:「土星の衛星エンケラドスに生命はぐくむ素材」)
リンは、これら6つのうち、天文学者が地球以外の天体の海から検出できていない唯一の元素だった。しかし、2004年に土星に到達した米航空宇宙局(NASA)の探査機カッシーニが土星のE環(非常に希薄なフェーベ環を除けば最も外側の環)の塵の中を飛行するようになると、リンの検出への期待が高まった。土星のE環は、衛星エンケラドスから噴出した氷の粒からできているからだ。(参考記事:「土星に太陽系最大の環を発見」)
エンケラドスは土星の衛星の中で6番目に大きいものの、その直径は500km程度しかない。カッシーニが土星に到達するまで、科学者たちは、エンケラドスは氷の塊だろうと予想していた。しかし、2005年にエンケラドスの表面から水蒸気や氷の粒子が間欠的に噴出しているのが検出され、エンケラドスの氷の外殻と岩石質の核の間に、全球を覆う内部海が存在していることが明らかになった。(参考記事:「土星の衛星エンケラドス、氷の下に全球を覆う海」)
今回の論文の筆頭著者であるポストベルク氏らは、以前の研究で、エンケラドスの海に複雑な有機分子が含まれている可能性があることを明らかにしている。(参考記事:「土星の衛星エンケラドスに有機高分子、初めて検出」)
カッシーニの画像チームのリーダーである惑星科学者のキャロリン・ポルコ氏は今回の研究には参加していないが、「エンケラドスは、地球外生命を探す場所として太陽系で最も有望で、最も手が届きやすい天体なのです」と言う。
からの記事と詳細 ( 土星の衛星エンケラドスからリンをついに検出、生命に必須の元素 - ナショナル ジオグラフィック日本版 )
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