ここ1年で急激に存在感を増し、PCのジャンルの1つとして定着した感のある「手の平サイズの小型PC」。CPUやAPUが内蔵するコア数やスレッド数が多くなり、内蔵GPUの性能も高くなってきたこともあり、昔の小型PCと比べると性能的にも十分満足できるレベルになっている。しかも価格がかなり安い。
最近では先鋭的なガジェット愛好家だけではなく、自宅でテレワーク用に利用する置き場所を選ばないデスクトップPCが欲しい、というユーザーからも熱い注目を浴びている。
この企画では、大きな話題を集めている手の平サイズの小型PCを5モデル集め、サイズ感やスペック、実際の性能などを徹底的に検証してみた。
厳選した5機種の小型PCを徹底比較
今回は、原則的にメモリやSSDを搭載し、OSもインストールされている「完成品」として購入できるモデルをピックアップした。ただしIntelのNUC 11 Extreme KitはベアボーンPCであり、PCとして購入できるモデルはパーツショップが独自にメモリやSSDを組み込んでPCとして販売している。とは言え小型PCの中でも非常に特徴のあるモデルなので、今回はあえて比較対象とした。
ここからは、比較する5モデルを簡単に紹介する。
CHUWI「RZBOX」
中国CHUWI(ツーウェイ)のRZBOXは、AMDの「Ryzen 9 4900H」をAPUとして採用する小型PCだ。ごついスリットを設けたアルミ製の外装が印象的である。
クラウドファンディング経由で購入できるモデルで、メモリやSSDを搭載しないベアボーンPCのほか、16GBのメモリと512GBのSSDを搭載してWindows 10 Homeがインストールされたモデルを用意する(直販サイトでは現在約7万4,000円)。今回はこのPCとして利用できる後者のモデルを検証した。
Intel「NUC 11 Extreme Kit」
IntelのNUC 11 Extreme Kitは、細長い長方形の筐体を採用する小型PCだ。ほかのモデルよりちょっと大きめではあるが、その分拡張性は高い。長さが約30cmまでのビデオカードを追加して3Dグラフィックスの描画性能を強化できるのは、NUC 11 Extreme Kitならではの特徴である。店頭で15万円ほどで販売されている。
今回はIntelから借用した検証用機材を使用した。CPUは8コア16スレッド対応のCore i9-11900KB、GPUはGeForce RTX 3060を搭載するビデオカード、メモリは16GB、SSDは500GB、が組み込まれていた。
Lenovo「ThinkCentre M75q Tiny Gen2」
LenovoのThinkCentre M75q Tiny Gen2は、AMDのAPUを採用する小型PCだ。ノートPC向けではなく、TDPが35Wに制限されたデスクトップPC向けのAPUを採用しているが、ほかのモデルに勝るとも劣らない非常に薄型でコンパクトな筐体が非常に印象的だ。
BTOに対応しており、CPUやメモリ、SSDの容量など細かく変更して購入できる。今回はAPUに「Ryzen 5 PRO 4650GE」、メモリは8GB、SSDは256GBのモデルを使用した(現在はBTOでCPUが選択できない状態だが、Ryzen 5 PRO 5650GEを採用するモデルの直販価格は6万6,550円)。
MINISFORUM「EliteMini HX90」
MINISFORUMのEliteMini HX90は、AMDのノートPC向けAPU「Ryzen 9 5900HX」を搭載する小型PCだ。Ryzen 9 5900HXは、8コア16スレッドに対応した最新の「Zen 3」コアをCPUコア部分に採用し、主にゲーミングノートPCで採用されることが多い高性能なAPUである。
ベアボーンPCのほか、メモリやストレージの容量が異なる3モデルをラインナップしている。今回はメモリが16GB、ストレージが256GBでOSにWindows 10 Proをインストールしたモデルを借り、性能などの検証を行なっている(直販価格は9万9,690円、現在はキャンペーン価格で8万9,690円)。
MINISFORUM「EliteMini TL50」
同じくMINISFORUMからはもう1台、EliteMini TL50を取り上げた。CPUは、IntelのノートPC向けCPU「Core i5-1135G7」を搭載する。一般的なノートPCやモバイルノートPC、液晶一体型デスクトップPCなど広い範囲で利用されている。ほかのモデルとの性能比較では、一般的なPCの指標として考えることも可能だろう。
16GBのメモリのみを搭載してSSDやOSを追加する必要があるモデルと、16GBのメモリと512GBのSSDを搭載し、OSにはWindows 10 Proをインストールしたモデルを用意している。今回はPCとして利用できる後者を借りて性能などの検証を行なった(直販価格は7万9,690円、現在はキャンペーン価格で6万6,690円)
サイズ感を比較してみる
まずはサイズ感を比較してみよう。同じ小型PCとは言っても、それぞれのモデルごとに幅や奥行き、高さは異なる。またWebサイトで見たときの印象と、実際に置いたときの印象はかなり違ってくる。それぞれのモデルの幅、奥行き、高さを整理したのが以下の表だ。
幅(mm) | 奥行き(mm) | 高さ(mm) | 容積(立方m) | |
---|---|---|---|---|
CHUWI RZBOX |
177 | 188 | 61 | 2,030 |
Intel NUC 11 Extreme Kit |
120 | 357 | 189 | 8,097 |
Lenovo ThinkCentre M75q Tiny Gen2 |
182.9 | 179 | 36.5 | 1,195 |
MINISFORUM EliteMini HX90 |
190 | 195 | 60 | 2,223 |
MINISFORUM EliteMini TL50 |
149.6 | 149.6 | 55.5 | 1,242 |
表の数値は、すべて本体を横起きで設置したときの位置関係に合わせて調整しており、スタンドなどオプションを含めたサイズではない。容積はIntelのNUC 11 Extreme Kitがもっとも大きいが、30cmのビデオカードを組み込めるという拡張性の高さを考えれば当然のことだろう。
幅や奥行きはともかく、40mmを切る厚みが魅力的なのがThinkCentre M75q Tiny Gen2。容積も、今回取り上げたモデルではもっとも小さい。これに続くのがEliteMini TL50で、幅と奥行きはThinkCentre M75q Tiny Gen2より小さく、容積もほとんど変わらない。置き場所に困らない小さなPCが欲しい場合は、この2つが最有力の選択肢となる。
主なインターフェイスを比較してみる
次に搭載する主なインターフェイスの数や種類を比較してみよう。ディスプレイ出力端子が豊富なら、マルチディスプレイを構築することでテレワークなどを含む日常的な作業を快適にしてくれる。高速にファイルをやり取りできるUSB 3.1(USB 3.2 Gen 2、10Gbps)対応のUSBポートや、高速な2.5Gigabit Ethernet対応の有線LANポートを装備するモデルも注目したい。
HDMI | DisplayPort | Thunderbolt 4(DisplayPort) | |
---|---|---|---|
CHUWI RZBOX |
1 | 1 | 0 |
Intel NUC 11 Extreme Kit |
1 | 3 | 2 |
Lenovo ThinkCentre M75q Tiny Gen2 |
1 | 1 | 0 |
MINISFORUM EliteMini HX90 |
2 | 2 | 0 |
MINISFORUM EliteMini TL50 |
1 | 1 | 1 |
ディスプレイ出力端子に関しては、独立したビデオカードを搭載するNUC 11 Extreme Kitが優れている。ただしこれらのディスプレイ出力端子はビデオカードが搭載しているものであり、マザーボード側が搭載しているものは利用できない。
EliteMini HX90も、HDMIとDisplayPortを2基ずつ装備しており、4系統の出力が可能だ。なお今回取り上げたモデルはすべてリフレッシュレート60Hzで4K解像度の出力が可能なので、4K対応ディスプレイも問題なく利用できる。
USB 2.0 | USB 3.0 (USB 3.2 Gen 1) |
USB 3.1 (USB 3.2 Gen 2) |
Thunderbolt 4 | |
---|---|---|---|---|
CHUWI RZBOX |
4 | 2 | 0 | 0 |
Intel NUC 11 Extreme Kit |
0 | 0 | 8 | 2 |
Lenovo ThinkCentre M75q Tiny Gen2 |
2 | 3(1基はType-C) | 1 | 0 |
MINISFORUM EliteMini HX90 |
0 | 6(1基はType-C) | 0 | 0 |
MINISFORUM EliteMini TL50 |
2 | 4 | 0 | 1 |
USBポートについては、10Gbpsの帯域に対応するUSB 3.1対応ポートを8基も搭載するNUC 11 Extreme Kitが有利。5Gbps対応のUSB 3.0対応ポートを6基装備するEliteMini HX90が、こちらでも次点となった。
また、ほかのモデルでは意外とUSB 2.0対応ポートが現役であり、高速なUSBメモリを利用するときなどは挿すポートを間違えないようにしたい。
Gigabit Ethernet | 2.5Gigabit Ethernet | |
---|---|---|
CHUWI RZBOX |
2 | 0 |
Intel NUC 11 Extreme Kit |
0 | 1 |
Lenovo ThinkCentre M75q Tiny Gen2 |
1 | 0 |
MINISFORUM EliteMini HX90 |
0 | 1 |
MINISFORUM EliteMini TL50 |
0 | 2 |
有線LANポートについては、2.5Gigabit Ethernetポートを2基搭載するEliteMini TL50がもっとも優れている。ただ、2.5Gigabit Ethernetを生かすにはブロードバンドルーターやネットワークハブの対応も必要であり、現状でその性能を100%引き出すためにはコストがかかる。
Gigabit Ethernet対応モデルでも、一般的な環境で利用するなら、とくに問題はないだろう。
今回取り上げたモデルは、電源ユニットを内蔵するNUC 11 Extreme Kitを除いてACアダプタで動作する。それぞれのモデルのACアダプタを比較してみたところ、一番小さいのはEliteMini TL50に付属する出力が65WのACアダプタだった。
これに次ぐのが同じ65出力に対応するThinkCentre M75q Tiny Gen2で、それ以外のモデルは総じてEliteMini TL50よりもかなり大きなサイズのACアダプタだった。
高性能で、発熱の目安となるTDPの設定が大きめになっているCPUやAPUを搭載する小型PCは、必要とする電力も大きい。RZBOXに付属するACアダプタは90W出力対応、EliteMini HX90では120Wにも達する。
対応する出力によって組み込む部品や数が変わってくるため、ACアダプタのサイズが大きくなるのは仕方のないことだ。ACアダプタのサイズと本体のサイズを合わせて考えたい、というユーザーなら、ThinkCentre M75q Tiny Gen2とEliteMini TL50が最適な選択肢となる。
ビデオカード搭載のNUC 11 Extreme Kitが別格の強さ
次は性能検証だ。今回取り上げた5機種で代表的なベンチマークテストを行ない、スコアや処理にかかる時間を比較してみた。なおThinkCentre M75q Tiny Gen2については、メモリの構成をほかのモデルと合わせるため、DDR4-3200対応の8GBメモリを追加している。
CPU | GPU | |
---|---|---|
CHUWI RZBOX |
Ryzen 9 4900H 8コア/16スレッド、3.3~4.4GHz |
Radeon Graphics |
Intel NUC 11 Extreme Kit |
Core i9-11900KB 8コア/16スレッド、3.3~4.9GHz |
GeForce RTX 3060 |
Lenovo ThinkCentre M75q Tiny Gen2 |
Ryzen 5 PRO 4650GE 6コア/12スレッド、3.3~4.2GHz |
Radeon Graphics |
MINISFORUM EliteMini HX90 |
Ryzen 9 5900HX 8コア/16スレッド、3.3~4.6GHz |
Radeon Graphics |
MINISFORUM EliteMini TL50 |
Core i5-1135G7 4コア/8スレッド、2.4~4.2GHz |
Iris Xe Graphics |
まずは日常的によく利用されるアプリを実行し、その処理性能をScoreとして表示してくれる「PCMark 10 Extended」を実行した。いつもの製品レビューでは個別の数値も掲載しているが、今回は機種が多いので、総合Scoreのみを比較してみた。
突出して優れているのはNUC 11 Extreme Kit。ただこのScoreは、GeForce RTX 3060搭載のビデオカードを搭載しているおかげであり、CPU内蔵GPUを利用しているほかのモデルと比較するのは、ちょっとフェアではないかもしれない。
別途ビデオカードを搭載しないタイプの中では、EliteMini HX90がもっとも優れている。CPUコアは最新の「Zen 3」であり、同じAMD製のAPUだがCPUコアの世代が1つ古いRZBOXや、ThinkCentre M75q Tiny Gen2は、さすがにおよばなかったようだ。EliteMini TL50は搭載CPUのグレードの差が響いている。
さらに、3Dグラフィックス描画性能を検証できる「3DMark」のテストも行なった。「Time Spy」は主にDirectX 12対応ゲーム、「Fire Strike」はDirectX 11対応ゲーム、「Night Raid」はDirectX 12対応だがTime Spyよりテスト内容は軽量で、CPU内蔵GPUを利用してゲームをプレイするときの適性を検証できる。
PCMark 10と同じように、GeForce RTX 3060搭載のビデオカードを搭載するNUC 11 Extreme Kitが素晴らしい成績を収めている。「ゲーミングノートPC」と呼ばれるタイプのノートPCでは、同じく独立したGPUを搭載することが多いが、それはGPUを搭載することで3Dグラフィックスの描画性能を著しく強化してくれるだけではなく、全体的な性能も底上げしてくれるからだ。
同じようにCPU内蔵GPUを搭載するモデルで比較すると、今度はEliteMini TL50がトップに立つ。EliteMini TL50が搭載するIntelの「Core i5-1135G7」では、「Intel Iris Xe Graphics」というGPUを内蔵しており、内蔵GPUの中ではかなり優秀だ。それが3DMarkの結果に反映しているのだろう。
AMD製のAPUを搭載するRZBOXやThinkCentre M75q Tiny Gen2、EliteMini HX90はほぼどんぐりの背比べといった状況である。どのAPUでも、内蔵するGPUは「AMD Radeon Vega」で性能もほぼ同じなので、こうした結果になる。
動画エンコードを行なう「TMPGEnc Video Mastering Works 7」では、約3分の動画ファイルをH.264/AVC形式と、H.265/HEVC形式でエンコードする時間を比較した。CPUのマルチコア性能をフルに活用するアプリで、CPUコアの性能がはっきりと示される。
この動画エンコードテストでもっとも優れていたのは、EliteMini HX90。先ほども述べた通り、最新のZen 3コアを搭載する最新のノートPC向けAPUであり、動作クロックも高めなのでこうした結果になったのだろう。これに続くのがNUC 11 Extreme Kitで、こちらも最新のCPUコアを搭載し、高い動作クロックをサポートするCPUだ。
こうした一方で、振るわなかったのはEliteMini TL50。Core i5-1135G7は、今回テストした中では唯一の4コア8スレッド対応のCPUであり、ほかのCPUやAPUが8コア16スレッド対応であることを考えると、いかにも非力ではあった。
ちなみにH.265/HEVCでのエンコード時のCPU使用率は、EliteMini TL50を除いて70~80%だった。今後アプリ側の最適化が進むことで、もっと差が開く可能性はある。
CPU温度が100℃に達するモデルもいくつかある
小型PCは一般的なデスクトップPCと比べてコンパクトなので、CPUクーラーも小さいものしか搭載できない。過去のレビューに寄せられたTwitterのツイートなどでは、消費電力や動作中の温度が知りたいという声もよく聞いたので、今回はこの辺についても検証してみた。
筆者が通常の自作PCで消費電力と温度の検証を行なう場合、システム全体に非常に強い負荷をかける「OCCT」というテストを利用する。しかし今回はOCCTを実行しようとすると、ほとんどのモデルでOCCTが強制終了してしまう。
OCCTを実行中の消費電力が、接続されているACアダプタの出力を超えてしまっているため、フェイルセーフ機能が働いているのだろう。そこで今回は、CPUの全コアを利用したときの処理性能を計測できる「Cinebench R23」を実行中の最高温度や消費電力を比較した。
まずは温度の状況だ。アイドル時は起動後10分後の状況、高負荷時は前述の通りCinebench R23中の最高温度温度だ。温度計測には「HWMonitor 1.45」を利用しており、表示された温度の小数点は四捨五入している。
まず高負荷時の温度については、RZBOX、NUC 11 Extreme Kit、EliteMini TL50の3モデルが100℃に達している。やはり小型PCだと、冷却性能が追い付かない場合があるようだ。
ただIntelの最近のCPUは、最初に高いクロックで動作するという特性があり、最高温度はその状況を反映した数値である。NUC 11 Extreme Kitでは最初に4.1GHzで動作し、しばらく経つと動作クロックが3.4GHzに低下し、そのときのCPU温度は92~95℃で推移した。
EliteMini TL50もテスト初期の動作クロックは3.8GHzを示し、このときにCPU温度が急激に上昇して100℃に達する。同じようにちょっと時間が経つと動作クロックが3.3GHzに低下し、CPU温度は80℃前後で推移するようになった。
ちょっと不安が大きいのはRZBOXで、テスト開始直後は3.4GHzで動作して100℃に達した後は、徐々にクロックを下げながらも100℃近辺で移行した。ほかのAMD製APUを搭載する小型PCと比べると、明らかに高い。
借用したモデルは製品版ではないということであり、製品版では改善が図られる可能性はあるが、このままだと負荷の高い状況で使い続けるのはちょっと怖い。
ThinkCentre M75q Tiny Gen2は高負荷時でも78℃、EliteMini HX90も87℃ではあるが、ほかのモデルと比べれば不安を感じるレベルではない。CPU温度だけで考えれば、ThinkCentre M75q Tiny Gen2とEliteMini HX90、テスト直後を除けば80℃で安定していたEliteMini TL50が優秀だ。
アイドル時は10W以下のモデルが主流
次に紹介するのは消費電力の状況である。消費電力は、ラトックシステムズの「ワットチェッカー RS-WFWATTCH1」をコンセントとPCの電源ケーブルの間に設置して計測した。
高負荷時の消費電力がもっとも少なかったのは、59.2WのEliteMini TL50。またこれは前述の通りテスト開始直後のクロックが高い状況の消費電力で、クロックが3.3GHzに下がると消費電力も41.2Wに低下している。
次点はThinkCentre M75q Tiny Gen2で、テスト開始直後はグラフの通り63.6W。CPU温度は75~78℃を推移しながらも若干クロックが下がり、消費電力も55W前後まで低下した状態で、テストを終えた。
消費電力が大きかったのは、NUC 11 Extreme Kitの139W。これもテスト開始直後の動作クロックが高い状況の数値で、3.4GHzまで下がると消費電力も112Wまで低下した。もちろんこの状況でもほかのモデルよりも消費電力は大きい。Cinebench R23はCPUのみを利用するテストなので、搭載するビデオカードはほとんど影響しない。
次に消費電力が大きかったEliteMini HX90は、テストが始まってから終わるまでの間、この消費電力と4GHzの動作クロックを保っていた。にもかかわらずCPU温度の状況が危険域に入っていないことを考えると、CPUクーラーの性能の高さやエアフローのよさが光る結果と考えてもよいだろう。
NUC 11 Extreme Kitを除いたACアダプタで利用するモデルだと、アイドル時の消費電力が軒並み10Wを切っていることにも注目したい。こうしたモデルでは、書類作成やWebブラウズといった軽作業時でもおおむね10~20Wの範囲で収まった。
一般的なデスクトップPCだと、アイドル時は20~30Wというモデルが主流である。そうしたことを考えると、「小型PCは省エネである」と考えても間違いではなさそうだ。
それぞれのモデルでメモリやSSDの拡張性を検証
最後に拡張性について検証した。こうした小型PCでは、底面などを外してメモリやSSDを交換できるモデルが多い。そもそもメモリやSSDを搭載しないベアボーンPCを用意しているモデルも多いわけで、各スロットにアクセスしやすいかどうかも小型PCを評価する基準と考えてよいだろう。
CHUWI「RZBOX」の拡張性
RZBOXでは、底面の9本のネジを外すと底面がズレて外せる構造だ。ただ、ややツメの引っかかりが強い部分もあり、外しにくいと感じる場面はある。底面からは2基のM.2スロットやメモリスロットにアクセスできる。2基のM.2スロットを装備し、一般的な2280サイズのM.2対応SSDを複数利用できるのは便利だ。
Intel「NUC 11 Extreme Kit」の拡張性
NUC 11 Extreme Kitでは、本体の側板や天板を外すだけではなく、ビデオカードや天板のケースファン、内部のカバーなどを外さないとメモリスロットやM.2スロットにアクセスできない。また内部には細かいケーブルがたくさん配線されており、こうした作業に慣れた筆者でもうっかり断線させそうになった。
メモリスロットは2基、ユーザーが自由に使える2280サイズのM.2スロットは3基確認できた。おそらくは2230サイズであろうM.2スロットも装備していたが、試用したモデルではここには無線LANカードがすでに挿してあった。
ビデオカードを利用できる唯一のモデルであることを考えると、拡張性はピカイチと言いたいところではある。しかしほかのモデルと比べると、作業難易度が激烈に高い。個人的には適切な容量を搭載するショップブランドモデルを購入した方が、事故は起きにくいのではないかと思う。
Lenovo「ThinkCentre M75q Tiny Gen2」の拡張性
簡単だったのはThinkCentre M75q Tiny Gen2だ。背面のネジを1本外すだけで、前面と一体化した天板が前面にズレて外せる。さらに底面のカバーを前面側に引っ張り出すと、メモリスロットやM.2スロットにアクセスできる。今回取り上げた中では、もっともラクに作業できた。
あとはメモリやSSDを組み込んだり、交換したりするだけなので特別難しいことは何もない。またCPUが組み込まれている側には2.5インチシャドウベイを搭載しているので、2.5インチSSDを追加することも可能だ。
MINISFORUM「EliteMini HX90」の拡張性
EliteMini HX90では、底面を固定している4本のトルクスネジを外し、薄いカードなどを使ってフックをじわじわと外していくと底面が外れて内部にアクセスできる。フックの固さはRZBOXに近いが、1つツメが外れてしまえば連動してほかのツメもパラパラとスムーズに外れていくのもRZBOXと似ている。
底面からアクセスできるのは、M.2対応スロットのみだ。また外した2基の2.5インチシャドウベイがあるので、2.5インチSSDやHDDを追加してストレージの容量を増やすのも容易だ。ただメモリスロットは、マザーボードを外して表面が見えるようにしなければならない。フレームに引き回された無線LANのアンテナケーブルが断線しないように、注意しながら作業しよう。
MINISFORUM「EliteMini TL50」の拡張性
EliteMini TL50では、底面を固定している4本のネジを外し、薄いカードでツメのロックを外していこう。底面が外れると、M.2スロットにアクセスできる。メモリスロットはないがこのモデルはメモリはオンボードなので、交換したり増設したりといったことはできない。
また外した底面には、2基までの2.5インチデバイスを固定できるシャドウベイがある。低価格の大容量SSDをこのシャドウベイで増設するのもよいだろう。難易度的にはRZBOXに近く、それほど苦労することなく作業できる。
拡張の「可能性」という意味では、NUC 11 Extreme Kitはずば抜けて高いと言ってよいだろう。しかし作業の難易度もまたずば抜けてが高く、筆者のような仕事をしている人間でも、正直なところあまり触りたくない部類の構造ではあった。
メモリスロットやSSDを組み込むM.2スロット、2.5インチシャドウベイへのアクセスだけで考えるなら、ThinkCentre M75q Tiny Gen2が頭一つ抜けてその次にRZBOXとEliteMini TL50が続くといった感じか。EliteMini HX90も、裏面からメモリスロットにアクセスできるともっと楽になるのだが……。
自分が必要とする要件を明確にしよう
今回は5機種を並べて比較してみたが、どれもよくできているな、というのが正直な印象だ。もちろん細かい性能の違いはあるにせよ、書類作成やWebブラウズによる情報収集といった軽作業なら、まったく不満を感じる状況はない。主なインターフェイスも、一般的な用途なら十分過ぎるほど装備している。
ただ、だからこそ「迷う」わけなので、自分が重視する要件が何かをきちんと明確にした上で、今回の結果を製品選びに役立ててほしい。またこうした小型PCはどうやら売れ行きもよいらしく、まだまだ製品は増えていくようだ。迷うほど製品数がなかった時代を知っている筆者にとっては、うらやましい限りである。
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