企業のITへの投資基準はシンプルだ。何らかの「価値」を加えるために投資をする。その観点で考えると、IT運用への投資は軽視されがちだ。それでいいのだろうか。
企業のIT部門はシステム監視やセキュリティ対策、ネットワーク運用、ヘルプデスクなどさまざまな業務を担っている。現状維持を目指すのであれば、予算も従来通りでいいだろう。だが長期的な視点で投資を検討することも重要だ。新たにデータ主導の運用を取り入れることで、顧客に提供する価値を高められる可能性がある。AI(人工知能)技術をシステム運用に取り入れる「AIOps」の可能性を探ってみよう。
さまざまな技術が登場しているにもかかわらず、顧客や事業部とやりとりをするヘルプデスクのほとんどは、チケット発行と人手による解決を基本にしている。AIOpsを導入すると大量のチケットを効率良く処理できるようになり、顧客にとっては素早いサービスの提供というメリットが得られるようになる。データ分析を取り入れることで、顧客のニーズをより効率的に把握できる利点もある。
一例として、チャットなどのコミュニケーションツールで自動的に応対をするbotを導入している企業もある。botによって、運用チームは次々と発生する大量のチケットへの対処から解放され、データ分析に基づく新しい取り組みを推進するための時間が生まれる。
IT部門はAIOpsによって受け身の姿勢を脱却し、先を見越した取り組みができるようになる。予測に基づくシステム運用の最適化で顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)を改善したり、データ分析を基に潜在的なニーズに基づく機能を製品やサービスに取り入れたりすることが可能になる。こうしたAIOpsを支えるのが自動化の仕組みだ。自動化によってチケットの迅速な処理、セキュリティ強化のための自動スキャン、ニーズを把握するためのデータの効率的な収集など実現する。
AI技術に対する誤解
AI技術に対してネガティブな印象を持つ人もいる。「人間の仕事がAI技術に取って代わられる」という考えがその一例だ。AIOpsの意図は、人間を不要にすることではない。チームメンバーの教育やスキル向上を図り、イノベーション(技術革新)によって将来の可能性を広げる機会を運用チームにもたらすものと見なすべきだ。
さまざまなシステムが生成する膨大な運用データや、顧客の利用傾向に関するデータを収集し、活用するのにAIOpsは役立つ。システムが生成するデータや事業部が把握すべきデータが膨大になると、もはや何らかのAI技術の介入なしでは効果的に処理できなくなる。
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