兵庫県は、社会的な偏見や差別をなくすための人権啓発ドラマを４０年間、毎年つくり続けている。全国でも例のない息の長い取り組みで、著名な俳優も起用してきた。今年度は、ひきこもる中高年と高齢の親が孤立する「８０５０（ハチマルゴーマル）問題」に踏み込んだ。
今年度の作品は「カンパニュラの夢」（３６分）。主要キャストは、県内出身の宮地真緒さん（洲本市）、六角精児さん（高砂市）、山田ルイ５３世さん（三木市）で固めた。
２０年以上、自宅にひきこもる男性とその両親が暮らす谷口家。高校生の娘と母親の岸本家。二つの家族の視点で物語は進む。
岸本家の母親は近所の人から「（谷口家の）息子さん、働いていないみたいなの。気をつけて。事件とかそういうのあるとかって聞くから」と言われる。だが、けがで部活を挫折した娘の姿を見て、ひきこもりは誰にでも起こりえると気づく――。
２０１９年、内閣府は４０～６４歳の「中高年ひきこもり」が全国で６１・３万人との推計を公表。若年層も含めた総数は１００万人以上と想定している。
企画した公益財団法人兵庫県人権啓発協会の阪上勝彦さん（５２）は「ひきこもる子を抱え、周りに言えずに、もがいている親がいる。その存在に気づき、どうしたら支え合うことができるのかを考えてほしい」と話す。
脚本と監督を務めた作道（さく・どう）雄（ゆう）さん（３０）は、制作会社からの依頼を受けて思い悩んだという。ひきこもりからの自立支援を掲げる業者の中には、強制的に連れ出して高額の費用をとる「引き出し屋」が存在することが問題化していた。
「教育映像として、ある種の解決に向かわないといけない。でも、うそみたいな解決は嫌だった。強制力が必要だという間違った価値観も直さないといけない。怖かった」と振り返る。
ひきこもり問題のルポを読み、著者のジャーナリストや、ひきこもり当事者が集まる「オフ会」を開く喫茶店主に会って話を聞いたという。「悩みの霧が晴れた。実際に動いて成果を出している人の話を聞いて、決して楽観論ではない、解決もあり得るのではないかと思えた」
ＤＶＤの販売は市町や学校、企業、ＮＰＯ向け。見たい場合は、居住する市町に上映会を希望したり、図書館に購入を求めたりする必要がある。
尼崎市では巡回上映会が開かれている。１日午後１時半からは塚口、８日午前１０時からは今北、９日午前１０時からは水堂の各地域総合センターで。
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人権啓発ドラマは市町や自治会、学校が人権研修をするときの教材用としてつくられた。取り上げるテーマは、それぞれの時代を映す内容だ。
最初の作品は１９８０年度の「ひろがれ のじぎくの輪」だった。娘の結婚をきっかけに同和地区内外の交流を描いた。
その後も毎年作品をつくってきた。当初は部落差別をテーマにすることが多かったが、障害者や外国人への差別、ドメスティックバイオレンス（ＤＶ）、子どもへの虐待、インターネットによる人権侵害も扱ってきた＝表参照。
過去の作品は、同協会が団体向けに貸し出しをしている。
（滝坪潤一）
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人権啓発ドラマのタイトルとテーマ（数字は年度）
２０００ 街かどから 豊かな人間関係
２００１ ま・さ・か わたしが！？ 情報社会における人権
２００２ 新しい風 ＤＶ・児童虐待
２００３ もう一度あの浜辺へ 高齢者虐待
２００４ 壁のないまち ユニバーサル社会づくり
２００５ 私の好きなまち 同和問題
２００６ 夕映えのみち ネット社会における人権
２００７ こころに咲く花 いじめと人権
２００８ 親愛なる、あなたへ 地域と人権
２００９ あの空の向こうに ケータイ・ネット社会と人権
２０１０ クリームパン いのちと人権
２０１１ 桃香の自由帳 共生社会と人権
２０１２ ほんとの空 意識と人権
２０１３ ヒーロー 無縁社会と家族
２０１４ あなたに伝えたいこと ネット時代における同和問題
２０１５ ここから歩き始める 認知症を共に生きる
２０１６ 風の匂い 障害のある人の人権
２０１７ あした咲く 女性の人権
２０１８ 君が、いるから 子ども・若者の人権
２０１９ サラーマット～あなたの言葉で～
ＳＮＳ時代における外国人の人権
２０２０ カンパニュラの夢
超高齢化社会とひきこもり（８０５０問題）
からの記事と詳細 ( 人権ドラマ４０年、俳優も多数出演：朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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