緊急事態宣言への抗議デモ(10月12日)に参加するスペイン・マドリードの女性。極右政党ボックス(VOX)はサンチェス首相への不信任決議案も提出。コロナ第2波の拡大に際して国内は混乱模様だ。
REUTERS/Juan Medina
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないヨーロッパ諸国。スペインは特に深刻な状況を迎えている。
感染対策の一環として、スペイン政府は10月25日に全土に非常事態を宣言、国内のほぼすべての自治州で夜間の外出を禁止した。
日本の感染状況は落ち着いているが、冬にかけての第2波・第3波への警戒も高まっている。もし2度目の緊急事態宣言が発令するとしたら、どんなことが起こりうるのか?スペインの危機感から学ぶべきことは多い。
失われた雇用はすでに60万人以上
スペインではコロナ禍ですでに60万人以上の雇用が失われている【図表】。
【図表】スペインの実質GDPと登録失業者数の推移。
出所:スペイン国家統計局・国家公共労働サービス資料より筆者作成
新型コロナウイルスの感染拡大前(2019年末)の時点で、スペインの登録失業者数は316万人だったが、今年6月には386万人へと70万人増加。その間、実質GDPはロックダウンの影響もあって4分の1ほど失われた。
夏季のバカンスシーズンに入り行動制限が緩和されたことを受けて、スペイン国内では人々の移動が活発化し、経済活動も再開。政府による雇用維持策も功を奏し、9月時点の登録失業数は378万人とわずかながら減った。10月30日に発表される7〜9月期の実質GDPは、10%近い伸び率が予想される。
ただし、今回の非常事態宣言に伴う封鎖措置によって、10〜12月期の実質成長率は再びマイナスに陥る公算が大きい。わずかに持ち直していた雇用も再び悪化せざるを得ないだろう。
そこで失職するのは、有期雇用や契約社員としての就労を余儀なくされている若年労働者層が中心となる。
スペインやイタリア、ギリシャといった地中海に面した国々の社会は家父長制的な性格が色濃く、不況期にはまず有期雇用や契約社員の形態で就労している若年労働者が解雇される傾向がある。
そのため、2010年代半ばの財政危機の際にスペインの失業率は25%にのぼったが、24歳以下の若年労働者の失業率は50%を超える異様な事態となった(上の【図表】参照)。
首都マドリードでもデモが勃発
コロナ第2波が荒れ狂うなか、厳しい舵取りを迫られるスペインのサンチェス首相。
REUTERS/Remo Casilli
新型コロナウイルスをめぐってスペインで非常事態が宣言されるのは2度目であり、6月までに適用された前回はきわめて厳しく外出が制限された。
今回の措置は当時に比べれば軽いと言えるが、感染対策を何よりも重視するサンチェス政権と各州政府との間ではスタンスに温度差があり、国内が一枚岩となりきれていないようだ。
例えば首都を擁するマドリード州の場合、都市封鎖(ロックダウン)の措置をめぐって、経済活動を優先するディアス首相と感染対策を重視するサンチェス政権の対立が表面化している。
結局のところ、サンチェス政権が10月9日にマドリード州の非常事態を宣言、ロックダウンが実施された。
政府が再び非常事態を宣言したことで懸念されるのは、スペイン社会で「コロナ疲れ」が再び深刻化することだ。
実際、8月には首都マドリードでサンチェス政権の感染対策に抗議する数百人規模のデモが行われ、公共の場でのマスク着用を義務付けるなどの感染対策に対する反発が、人々の間で強まった。
マスク着用義務化に反発して抗議デモを繰り広げるマドリードの市民たち。8月16日撮影。
REUTERS/Juan Medina
そうした矢先に感染が再び拡大し、サンチェス政権は感染対策を強化する方向にかじを切ることになった。スペインの人々は再び先が見えない闇の中に引き戻されたようなものであり、その心中は察するに余りある。
最悪のシナリオは、人々のストレスが爆発して社会が不安定化し、政府が信頼を失ってしまうことだ。そうなっては感染対策もままならないし、治安も悪化して経済活動を正常に行うことも不可能となる。
程度の差はあれ、ヨーロッパのいずれの国も似たような状況にある。
例えばフランスではマクロン政権が9月23日に主要都市の飲食店の営業を制限したが、首都パリや南部マルセイユの市長らは社会経済活動を軽視するとしてこうした措置に反発し、反対のデモも生じた。市民に近い立場の政治家ほど、社会が抱えるストレスを重視している。
感染対策は重要だが、厳しい外出制限などを実施すれば人々のストレスが爆発してしまう。そんなおそれを各国が共有している。
春から初夏にかけて実施したような厳しい制限措置をヨーロッパの国々がとらない、とれない背景には、それが社会の不安定化につながるリスクが容易に予見されるからだ。
若者は「非合法な就労」にすらありつけない
今年8月15日、スペイン・マヨルカ島のビーチの様子。観光関連産業は賑わいを見せた。一時的とはいえ雇用も生まれたが……。
REUTERS/Enrique Calvo
8月のスペインの失業率は16.2%、その時点ですでに6カ月連続の上昇を記録しているが、今回の都市封鎖による経済の悪化を受け、今後も上昇すると見込まれる。
前回の非常事態に比べれば経済活動への制限が緩いとはいえ、政府による雇用維持策にも限界があることから、再び失業率が20%を超える事態となるのも時間の問題だろう。
当然、若者が職にありつけない状況も長期化すると懸念される。
これまでの不景気では、若者たちは地下経済での非合法な就労で所得をある程度カバーすることができた。
地下経済とは、政府による課税の対象から外れた経済活動を意味し、企業による簿外での雇用、個人事業主や農家による簿外での取引、不正な経理処理などが相当する。
地中海沿岸に景勝地を有し、また歴史的な遺構も多いスペインなどの南欧諸国では、観光関連産業(宿泊・飲食サービス業)が栄えており、そうした産業では地下経済が活発だった。今年の夏も、行動制限が緩和されたことで、スペインの沿岸部には多くの観光客が訪れ、ある程度の雇用が生み出されたと考えられる。
しかし非常事態を再宣言したことで、前回よりも軽いとはいえ経済活動に制約がかかるため、地下経済で就労の機会を見つけることもまた困難になる。ただでさえ険しい無期雇用や正社員での就労の道がなおさら遠くなり、文字通りの「ロストジェネレーション」が多く生まれる。
再び問われる「経済活動と感染対策」のバランス
スペインの現状が投げかける問題は、感染拡大時に経済社会活動をどこまで制限するのか、またすべきなのかということに尽きる。
スペインはいち早く再度の非常事態宣言に踏み切ったが、社会経済活動への悪影響に鑑み、春先のような強い措置は取り得なかった。
ひるがえって日本では、新型コロナウイルスの日当たりの新規感染者数はヨーロッパ諸国に比べてかなり抑制されている。近隣のアジア諸国も相対的に感染が抑制されていることから、日本政府はシンガポールや韓国、ベトナムなどとの間で短期出張者の往来再開について合意した。
とはいえ、日本でも今後感染が再拡大した場合には、感染抑制策を強化せざるを得ないかもしれない。
前回は行動制限が緩かった分、スペインに比べれば日本の人々のストレスはまだマシかもしれない。それでも、国内の人々は着実にコロナ疲れを抱えている。また、日本でも雇用悪化を受け、すでに多くのロストジェネレーションが生まれている。
感染対策は重要であるが、一方で社会経済活動を続けていくこともまた大切だ。そのバランスの難しさを、スペインの事例は物語っている。
(文・土田陽介)
土田陽介(つちだ・ようすけ):三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。2005年一橋大経卒、06年同修士課程修了。エコノミストとして欧州を中心にロシア、トルコ、新興国のマクロ経済、経済政策、政治情勢などについて調査・研究を行う。主要経済誌への寄稿(含むオンライン)、近著に『ドル化とは何か‐日本で米ドルが使われる日』(ちくま新書)。
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October 28, 2020 at 02:00PM
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フランス、スペイン二度目のロックダウンで迫りくる“本当の危機” - Business Insider Japan
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