「グッバイ・リチャード!」で久々の演技派ぶりを見せてくれるジョニー・デップ。元々彼はインディーズ志向のクセモノ男優と呼ばれていたことを思い出させてくれます。でもジョニーの顔はそれだけじゃない!くるくるカメレオンのように変化するジョニーの横顔を復習しておきましょう!前編後編の2記事にわたってお届けします。(文・金子裕子/デジタル編集・スクリーン編集部)
我が道を行くカメレオン俳優
初の主演映画「クライ・ベイビー」(1990年)から30年。常にユニークな役作りで楽しませてくれるジョニー。「クライ・ベイビー」公開当初はイケメン・スターとして脚光浴びたが、「商品のように扱われるのは息がつまる。自分の道は自分で選ぶ」と、"美男系"のありきたりな役柄はお断り。
次に選んだのは、両手がハサミという人造人間を演じた「シザーハンズ」(1990年)。白塗りメイクで意表をつきながらも、異形の青年の孤独と切ない恋心を演じきりユニークな個性が高く評価された。
この主演第2作は、キャリアに多大なる影響をもたらす朋友ティム・バートン監督との初コラボ。以後、二人のコラボ作は「エド・ウッド」(1994年)に続き「スリーピー・ホロウ」(1999年)、「チャーリーとチョコレート工場」(2005年)などでゴールデン・グローブ賞主演男優賞候補になる勢い。
さらに、2007年には、ミュージカル初挑戦の「スウィーニー・トッドフリート 街の悪魔の理髪師」で、同賞を受賞したばかりか、3度目のアカデミー賞主演男優賞候補にもなっている。
妻と娘を奪われ復讐の鬼と化した理髪師スウィーニー・トッドのおぞましい行状に震えながらも、その深い哀しみがひしひしと伝わってくるのは、もちろん多面的な演技のたま物。そして、なにより感情を激しくぶつけたり、すすり泣くように声を絞り出す歌の素晴らしさ。正攻法の歌唱ではないのに、観る者の感情を揺さぶり続けるのだ。すごい!
冒頭に書いたように、自分の道は自分で選び続けるジョニーのキャリアは、「ラスベガスをやっつけろ」(1998年)のテリー・ギリアム、「夜になるまえに」(2000年)のジュリアン・シュナーベル、2度目のアカデミー賞主演男優賞候補にもなった「ネバーランド」(2004年)のマーク・フォースターなど、鬼才や俊英監督と組んで積み上げられてきた。そして、それはいわゆるハリウッドのメインストリームの外でこそ成立すると思われてもきた。
しかし、大異変!そう、莫大な制作費を投入した超大作「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ(2003〜2017年)で演じた海賊ジャック・スパロウの突拍子もない役作りに世界中が仰天し、大ウケ!初めてアカデミー賞主演男優賞の候補にも選ばれ、メジャー作品の成功を得た、文字通りのトップスターとなったのだ。
とはいえ、ジョニーの仕事へのスタンスは変わらない。ジャック・スパロウの役作りに大物プロデューサーからクレームがきても、「これでダメなら役を降りる」とどこ吹く風。「ファンタスティック・ビースト」シリーズ(2016〜2018年)で演じた黒い魔法使い(グリンデルヴァルド)も最初は前作シリーズとなる「ハリ・ポタ」ファンから"違和感"が囁かれたけれど、いまや大人気キャラになっている。
そう、大作だろがインディペンデント作だろうが、"自分で選んだ道"を貫き通すのがジョニー流。
最近作「グッバイ、リチャード!」は、久しぶりにインディペンデントへの回帰作。余命宣告を受けた主人公の大学教授が「残された時間をありのままに過ごす」姿は、57歳になったジョニー自身の"想い"を投影したかのようで、愛おしく、大いに共感。「そう、そう、ジョニーって、こういう人なのよねぇ」と思えてくる。
すでに50作以上に出演しながら、常にユニークなキャラクターを生み出し続けるジョニー。"カメレオン俳優"として、観客からも映画界からも多大な熱狂とリスペクトを捧げられているのも、納得だ。
本当はミュージシャン?本の収集家としてもすごい
若き日は俳優よりもミュージシャンへの夢を膨らませていたのは有名な話。1980年代に「The Kids」というバンドを結成しフロリダで活動。イギー・ポップの前座を務めたこともあったのだが、「エルム街の悪夢」(1984年)への出演が決まりロサンゼルスへと拠点を移したために、バンドは解散。
1995年にはガレージでセッションを繰り返していたバットホール・サーファーズのギビー・ヘーンズとバンド「P」を結成し、CD発売。じつは当時、早速、手に入れて拝聴したのだが、確かにジョニーのギターの腕前はなかなかだったが、バンドのコンセプトはイマイチ。そのせいかバンドは間も無く自然消滅してしまった。
同じ頃ローリング・ストーンズのキース・リチャーズの息子と知り合い、敬愛するキース自身との親交が深まるにつれ、コネクションも広がっていく。御大キースによれば「ジョニーは自分が思っているより、ずっとギターが上手いよ」とのこと。
そんなジョニーは、ギタリストとして活動を続け、2010年にはイギリスのインディーズ・バンド「ベイビーバード」のアルバムに参加し、2015年にはアリス・クーパー&ジョー・ペリーとともにバンド「ハリウッド・ヴァンパイアーズ」を結成。同名のアルバムをリリースもしている。
また、2010年に設立した自らのレコードレーベル「UNISON MUSIC」では新人発掘の活動も精力的に行なっている。
2012年には大手の出版社と共同で立ち上げた自らの出版レーベル「インフィニタム・ニヒル」からボブ・ディランの評論集「The Unraveled Tales of Bob Dylan」(ダグラス・ブリンクリー著)も初出版。
そう、ジョニーは本への造詣も深く、収集家としても多くの蔵書を所有。
とりわけ、リスペクトと愛を込めてトレードマークのタトゥまで入れている伝説のジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンの著書などは逸品。彼の原作をテリー・ギリアム監督が映像化した「ラスベガスをやっつけろ」(1998年)にも、嬉々として出演していたっけ。
さて、正直なところ、ジョニーの俳優以外の活動、とりわけ音楽活動は多岐にわたり、すべてを追いきれない。
2019年にはエアロ・スミスのラスベガス公演に飛び入りし、新作アルバム「ライズ」をリリースした「ハリウッド・ヴァンパイアーズ」のLAライブにも参加。このバンドとともに2020年には、コロナ騒動がなければ、大規模なヨーロッパ・ツアーも予定されていたのだが、現在は未定。
とにかく今後も、ジョニーのあらゆる活躍から目が離せないことだけは、確か。
Photos by Getty Images
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August 15, 2020 at 01:09AM
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