『ドラえもん』『エスパー魔美』などで知られる藤子・Ｆ・不二雄先生は稀代のＳＦ作家でもある。『未来の想い出』を読んで、別の一面に触れた思いだ。
主人公・納戸理人は落ちぶれた中年漫画家。かつては大ヒット作を描いた売れっ子だったが今は世間からほぼ忘れられ、家庭もうまくいっていない。そんなある日、出版社のゴルフコンペでホールインワンを決めて、喜びのあまり心臓マヒを起こし、死亡する。
だが、夢の中のような場所で理人に呼びかける声が聞こえる。「おーい」「あのときの誓いを忘れたの？」。そして場面は転換。２０年も前の漫画家を志して上京した若き日の理人がそこにいた。
不思議な既視感を持ちつつ、理人は漫画家をめざす仲間たちと、貧乏だが夢に満ちた日々を送っている。劇団員の女性との淡い恋。ところが成功が舞い込んだ。漫画『ざしきボーイ』が好評で、やがてブームになり、連載が次から次へ。人生の頂点で、恋人が失踪する。
人気も長くは続かなかった。数々の連載の終了を告げられ、失意のある日、理人は幻覚に悩まされていたが、その正体を突き止めた。「時間の流れの渦」にまきこまれ、同じ２０年を何度も繰り返していたのだ。
栄光と転落の人生を繰り返させられていることを呪いつつも運命の神に反抗する決意をする理人。「未来の想い出」を武器に。記憶を保ったまま若き日をやり直すこととなる。
理人の願いはかなうのだろうか。ぜひご自分で確かめてほしい。すべては真実の愛を得るための神の試練だったともいえる清々しいラストが待っている。映画化もされた秀作だが、確かに一本の映画を見終わったような充足感があった。
大阪府豊中市 小林恵子 ４１
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